北米報知新聞(NorthAmericanPost)連載エッセイ
      都筑大介 「一言居士のつぶやき」

    第5回 おひとり様 (2009年11月18日掲載)



 今の日本は、GDP(国内総生産)ではもうじき中国に追い抜かれて世界3位に落ちそうだが、少子高齢化においては他の追随を許さないナンバーワンである。
 その背景には、ボクがまだ大学生だった1960年代後半頃から徐々に加速していった晩婚化・未婚化という社会現象がある。初婚年齢と未婚率の推移はそのことを如実に物語っている。

 ちなみに1965年と2005年を比較すると、
 初婚年齢は、男が27歳から30歳へ、女の方は24歳から28歳へと上昇。
 未婚率の方は、25〜29歳の男女が46%から71%になり、30〜34歳の場合は11%から47%へと4倍を超える増加を見せている。

 未婚者の90%は結婚を望んでいるがそのチャンスに恵まれないのが現実。昔はどこの町にもいたお見合いの世話焼きおばさんも今はほとんどいなくなってしまったし、経済的事情も大きい。
「結婚は生活設計が出来るようになってから」と考えるのは当然だが、格差が広がり将来の展望が拓けない社会状況では婚期が遅れる、いや、結婚出来ない人が増える。不安ばかりが募る今日に生きる若者たちは可哀相だ。それに、少子高齢化は国の経済力を衰退させる。少子化問題を口先だけでお茶を濁してきた前の自民党政権の罪は重い。


 ある社会学者によると、晩婚化・未婚化の原因のひとつは「性モラルの退廃」であるという。確かにボクらの若い頃は、婚前交渉はタブーだったからセックスしたければ結婚するしかなかった。もし結婚相手ではない娘さんとセックスをしたら、父親が「娘を傷ものにしたな!」と怒鳴り込んでくる時代だった。ところが次の団塊世代あたりから若い男女の同棲が流行り始め、その後ポルノ映画が解禁され北欧でのフリーセックスが喧伝された影響もあって若者が結婚とは関係なく性を楽しむ時代が到来し、今日に至っている。

 また、女性が社会で活躍する機会が増えてきたにもかかわらず、出産後に仕事復帰できる社会システムの構築が遅れている。それゆえ、結婚することで出てくる育児問題を避けるために晩婚化が進んでいることも無視できない要因である。

 しかし、結婚して夫の収入に頼って生活する女性はまだまだ多い。その母親の、自由に使える小遣いも少なく生活をエンジョイ出来ないでいる姿をそばで見ている娘にしてみれば、「結婚なんかしないで、親元から働きに出ている方がよほど人生を楽しめる」ということになる。実家の居心地が良ければ尚更で、パラサイトシングルが増える道理である。


 余談になるが、「結婚せず、経済的な自立をし、豊かな生活を楽しみながら気ままに人生を過ごす」女性たちのことを『おひとり様』と言うのだそうだ。長引く不況とリストラの嵐の中で萎縮している男たちを尻目に、「私ね、自分以外の人の面倒は看られないのよ」とおっしゃる『おひとり様』がこの頃とみに増えている。

(これも少子化要因のひとつだな)と思いながら周りを見渡すと、ボクの女友達にはなぜかこの『おひとり様』が多い。その中のA子さんは娘をとても可愛がってくれていて、娘も彼女を「A子母さん」と呼ぶほど慕っている。
 去年の夏だったと記憶しているが、食事に招待された娘が「うちの父ったら、A子母さんがお嫁に行かないのは俺に惚れてるからだ、って言うんですよ」とボクの与太話を酒の肴にした。すると機転が利く彼女は「お母さんに必ず伝えるのよ、うんと長生きしなさいって。でないと私がダイちゃんのお嫁さんにされちゃうから」と答え、その場が大いに盛り上がったらしい。
 男勝りな『おひとり様』は精神的にも逞しい。ボクも見習いたいものだが、(もしも娘が「私もA子母さんみたいな生き方をしたい」と言い出したらどうしよう……)と気が揉める今日この頃でもある。


                           [2009年11月]