北米報知新聞(NorthAmericanPost)連載エッセイ
      都筑大介 
「一言居士のつぶやき」

   第7回 夜明け前 (2010年1月20日掲載)



 鳩山民主党政権が誕生して4か月――。急務の景気浮揚に加えてナショナルフラッグJALの再建や沖縄の米軍基地移転問題など難問山積で、なかなか新軌道に乗れないでいる。
 理想と現実の狭間で葛藤している鳩山首相を評して大手メディアは、「指導力不足」と手厳しい。
 新年度予算案に盛り込まれた政策を「マニフェスト通りではない」と酷評し、『新成長戦略』についても「絵に書いたモチだ」と夢の腰を折る。
 それがボクには腹立たしい。


 新政権のあら探しばかりして一体どうしたいのか。
 政権を握って初めて分かったこともあるだろう、前政権の尻拭いをしながらではマニフェスト通りにできないこともあろう、ハードルが少々高くても国民共通の夢としてチャレンジしてみればいい。
 政権交代を歓迎しておきながら彼らはなぜそういった見方が出来ないのか、ボクには不思議でならない。


 沖縄の基地問題も、「アメリカの意に従うことが第一」と訳知り顔な論を張るのではなく、過去の経緯を丁寧に紐解き、世界情勢やアメリカの本音分析と併せて今後の望ましい日米関係を国民に考えさせる報道に力を注ぐべきだろう。今年は日米同盟50周年なのだから。

 あの2001年以降、アメリカはアジア地域の米軍再編を進めている。
 1996年に返還合意された普天間飛行場の代替基地を同じ沖縄のキャンプシュワブ沿岸部に建設するという2006年の日米合意もその一つである。
 が、現在日本には米軍基地が134か所あり、面積比でその75%が沖縄に集中している。しかもキャンプシュワブ沖は、サンゴ礁が豊かに広がり、絶滅危惧種のジュゴンが生息する「ちゅら(美しい)海」である。
 基地負担軽減という本旨に反する上に貴重な自然を破壊してもいいのか、とボクは疑問に思う。


 アメリカが世界各国で米軍の縮小・撤退を進めている中、在日米軍を縮小する兆しが見えないのはなぜか?
 駐留経費のうち約60億ドルを毎年日本が負担していることもあるだろうが、ボクはそれ以上に日本側の利権が絡んでいるように思う。
 2004年のアメリカ側からの提案は普天間の機能を嘉手納基地に統合するというものだった。それが嘉手納住民の反対を理由に白紙に戻され、30億ドル以上かかるキャンプシュワブ沿岸部への代替基地建設案が浮上している。埋め立て土砂を切り出す山を買い占めた有力政治家がいるらしい。
 海兵隊員8000人の移転に関しても、日本はグァムでの米軍新基地整備に別途28億ドルを支出する。これら内外の基地関連事業の受注をすでに日本のゼネコン各社が競い合っている状況が、ボクの眼には異常に映る。
 アメリカが在日米軍を縮小しないのではなくて、日本側が縮小させないようにしてきたように思えてならない。


 ことほど左様にいびつな関係を見直すことを鳩山政権はアメリカに提案している。この重要課題が友好裡に解決されれば、互いに本音で語れる新しい日米関係が始まるはずだ。
 今の日本は内政・外交ともにまだ夜明け前である。
 それだけにメディアの目が常に日の出る方向を見つめていないと、報道に影響されがちな庶民の心に夜明けは来ない。
 メディアにもボクら庶民と一緒にこの国の夜明けを迎える役割を担ってもらいたいものである。


 あれこれ愚痴をこぼしていても仕方がないから、正月らしい笑い話で締め括りたい。

「正月の鏡餅というのは、トラさん。飾るのは暮れの28日、鏡開きといって餅を割って食べるのは正月の松が取れた11日と昔から決まっておるんじゃよ。分かったかな」

「へえ、さすが物知り大家と言われるだけのことはあるや。おそれ入谷の鬼子母神だ」

「これこれ、年寄りをからかうものではない」

「ところで大家さん、鏡餅ってぇのは、割った時にいつもガビが生えてるじゃねーですか。ありゃあ一体どうしてなんです?」

「決まってるじゃないか、早く食べないからだよ」

                           [2010年1月]