北米報知新聞(NorthAmericanPost)連載エッセイ
      都筑大介 一言居士のつぶやき」

    第11回 思いやり (2010年5月19日掲載)



 青葉茂り風薫る季節なのに、沖縄の米軍普天間基地の移設をめぐる怒りの熱気が列島を覆い、国がひっくり返りそうな騒ぎである。
 原因は15年前、海兵隊員3人による12歳少女暴行事件の後に基地返還が合意された時に米側が代替施設供与を要求したことにある。以来自民党政権は移設先を沖縄県内に造ろうとしてきた。が、激しい住民反対で何も決められずに10年が経過した2005年、中部の辺野古沖を埋め立てて新基地を造ることを新たな日米合意とした。が、ジュゴンが生息し豊かなサンゴ礁が広がる美しい海を守りたい県民の根強い抵抗で杭1本打てないまま、昨年夏、自民党は政権を失った。「県外または国外への移設」を念頭に置く鳩山新首相はこの5月末までに問題を決着させると言明し、当然、沖縄県民の期待は高まっていた。

 しかし、ここにきて「県内移設やむなし」と取れる首相発言があり、沖縄では「県内移設絶対反対」を叫ぶ県民大会が開かれ9万人が参加した。移設候補地の一つとして名前が挙がった鹿児島県徳之島でも同様に2万5千人の「受け入れ絶対拒否」署名がなされた。

 この情勢を好機と見た野党自民党は「5月末決着ができなければ鳩山首相は退陣せよ」と迫り、メディアはこぞって「公約違反だ、リーダーシップに欠ける」と大合唱。しかも、沖縄駐留海兵隊の抑止力をことさらに強調して「日米関係を悪化させた責任は重大だ」と連日の鳩山叩き。いかにも「辺野古に基地を造れ」と言わんばかりの論を繰り広げている。


 この件に関してボクには素朴な疑問が幾つかある。

 まずは「大手メディアは日ごろから沖縄の基地負担軽減を主張してきたはずだが、それは嘘だったのか?」という疑問である。彼らに「沖縄への思いやりはないのか」と訊ねてみたい。


 次は「本当に海兵隊には抑止力があるのか?」という疑問だ。冷戦時代と違って現在の東アジアで抑止が必要なのは北朝鮮の暴発だけなのだから、機動力を駆使して迅速対応する海兵隊は近接の韓国にいるべきだと思うが、沖縄にいる。しかも約1万2000人の沖縄駐留兵のうち6000人余がアフガニスタンに遠征しているし、残りの半分も訓練で沖縄を留守にしている。また、日米ロードマップ合意では約8600人がグァムに移ることになっている。その海兵隊に果たして抑止力があるのだろうか、誰か教えて欲しい。

 そして「なぜ辺野古沖新基地なのか?」である。
 この日本政府案の青写真が、
50年ほど前に米軍が佐世保クラスの軍港も備えた一大基地を想定して作成した青写真と寸分も違わないことはすでに明らかになっている。
 それだけに、新基地建設で甘い汁を吸いたい日本の利権集団と駐留経費のかからない日本の基地を手放したくない米軍部が裏で繋がっているような気がしてならない。ボクはその真実を知りたい。


 大手メディアの報道によれば、現在米政府は「日米合意(辺野古新基地建設)」の履行を鳩山政権に強硬に迫っているという。
 が、ボクは、(地元住民が反対している場所や環境破壊を招く場所には新基地は造らないはずの米国がどうして?)と、首をかしげている。そんな民意に反する無理を日本政府に強いて、もしも沖縄が発火点となって燃え上がってきた嫌米感情が反米感情に転化したらどうするのだろうか、と余計な心配までしている。


 米国内でも、国際政治学者のチャルマール・ジョンソン氏が「日本の大きな民意を無視してはならない」、外交問題評議会のシーラ・スミス氏が「沖縄県内移設の検討は直ちにやめるべき」と主張していると聞く。
 また、日本は長年にわたって米国債を購入し(現在の保有高は7700億ドル)、毎年60億ドルを拠出して米軍駐留経費の大半を負担してきている。
 それがすべて国民の血税からであることを再認識してもらい、改めて日本にある基地の必要性を仕分けをした上で、「普天間の機能は米国内に移転する」というぐらいの「思いやり」を示してもらいたい、とボクは願っている。


 それにしても、鳩山政権叩きに血道をあげている大手メディアは異常である。
 現政権が考えている「記者クラブ制度廃止、クロスメディアオーナーシップ規制、電波オークション」などのせいなのだろうが、既得権益を守ろうと必死な姿勢にボクは哀れさを感じる。
 早くメディア本来の原点に立ち戻り、「思いやり」の心を取り戻してもらいたいものである。

                             (2010年5月)