北米報知新聞(NorthAmericanPost)連載エッセイ
都筑大介 「一言居士のつぶやき」
第13回 民意の誤算 (2010年7月21日掲載)
高温多湿な梅雨だったこともあるが、今年の夏はとても蒸し暑く悩ましい。
7月11日の参院選挙は民主党が惨敗し、参院での与党勢力は過半数割れした。衆院で過半数を大幅に上回る与党だが、参院で否決された法案を衆院で再可決して成立させられる3分の2には議席が足りない。
つまり、予算案以外はどんな法案も参院で否決されると成立しなくなった。与野党の枠組みが変わらない限りこの「衆参ねじれ状態」は向こう6年間続き、政治の停滞と混迷によって国民生活に多大な影響が出るのは必定である。
今回国民は民主党に単独過半数を与えないまでも連立与党に過半数を維持させるだろうとボクは思っていた。そうでないと長引く閉塞状態から抜け出せないからである。
しかし、結果は違った。
では、民主党政権は国民から見放されてしまったのだろうか? いや、そうではない。まだ多くの国民が民主党に望みを託している。そのことは得票数を見れば分かる。
民主党の得票総数は、政党を選ぶ比例区で31%、候補者個人を選ぶ選挙区で17%、自民党のそれを上回っている。
にもかかわらず獲得議席数では民主44・自民51という結果になってしまったのは、東京・大阪・名古屋などの大都市を除く地方都市に29ある定数1の選挙区で8勝21敗と自民党に大敗したからである。
大手メディアは選挙中に菅首相が消費税増税に触れたことが民主党の敗因だと分析するが、だとすると「2年後に現在の5%から10%に引き上げる」と具体的に言及した自民党が躍進した説明がつかない。
敗因はむしろ、財源不足を理由に政権交代時のマニフェストが修正されていくことと新執行部が小沢前幹事長の敷いた選挙戦略を転換したことの方が大きい、とボクは思う。
菅新体制は鳩山・小沢W辞任という起死回生の一手をムダにしてしまった。旧勢力利権集団と官僚組織に大手メディアが加担して画策してきた「小沢外し」と「政権弱体化」は、民主党のオウンゴールによって効果を上げた訳である。
菅首相が国家財政の建て直しのために消費税を含む税制の抜本改革を訴えた気持ちは分からないでもない。国の財政状況は驚くほどひどいからである。
財務省統計によると、国債残高と政府保証債務などを合わせた国の借金は、15年前の1995年は495兆円のGDP(国内総生産)をかなり下回る320兆円だった。それが2001年には538兆円となってGDP503兆円を超えた。それから9年後の今年3月末、国債720兆円を含む国の借金は883兆円まで膨らみ、GDPは475兆円に落ち込んでいる。
また、今年度の一般会計予算92兆円は税収37兆円・その他収入11兆円・国債発行44兆円で構成されている。つまり歳出の半分を借金で賄っている状態だ。
しかし、一方で日本は対外債権を600兆円持っている。だから実質債務は約300兆円ということになる。
また、一般会計の4倍もある特別会計がムダ遣いと官僚利権の温床となっている。特別会計には毎年多額の剰余金が出ており、その累積額は少なく見積もっても100兆円を越す。他にも外貨準備金の運用益が毎年約5兆円、米国債の受取利息が毎年約3兆円など、新しい政策の財源に出来る資金はあちこちにある。が、これらの資金がどこにどう使われているかは不明なのだ。
10年近く前に「親が母屋でお粥をすすっているのに子供は離れですき焼きを食べている」と嘆いた財務大臣がいたが、官僚が特別会計というブラックボックスに仕舞い込んだ既得権益を享受している状態は今も続いている。
民主党政権が「国民の生活が第一」の政策を実行するためには、この特別会計に大胆なメスを入れなければならない。国民はそれを期待して民主党に政権を託した。が、官僚組織の抵抗は巧妙かつ凄まじい。
しかも、なぜか官僚サイドに立つ大手メディアが民主党政権叩きに血道を上げるから旗色がどんどん悪くなる。こんな時こそ国民のバックアップが必要なのだが、図らずも参院与党を過半数割れさせて民主党政権の力を削いでしまった。
「こんなつもりじゃなかったのに……」
苦いつぶやきが日本列島のあちこちから上がっている。ボクにはそれが聞こえる。
ともあれ、民主党には政権交代時の原点に戻って出直してもらいたい。石に噛り付いてもマニフェストを実行する決意を新たにしてもらいたいものだ。と、あれこれ頭を悩ませてしまう今年の夏の夜は寝苦しい。
(2010年7月)
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