北米報知新聞(NorthAmericanPost)連載エッセイ
      都筑大介 「一言居士のつぶやき」


   第15回 役人天国 (2010年9月15日掲載)




 つらつら考えてみるに、日本という極東の島国ではいつの時代も役人(特に高級官僚)が良い思いをしてきたように思われてならない。

 その役人は現在、国家公務員が約31万人、地方公務員は約300万人、小泉時代の法改正で公務員と見做さなくなった独立行政法人職員が約13万人いる。
 政府統計によると彼らの2008年の年収は、国が663万円、地方は729万円、独法に至っては733万円だった。同じ年に民間の上場企業が589万円で全企業平均は430万円だったことや
10年前と比べると民間が約8%下がっているのに公務員はほぼ横ばいであることを勘案すると、まさに日本は役人天国に違いない。

 しかも、25000人余りの国や地方の官僚OBが今も国や県の外郭団体約4500に天下っている。中には天下り団体を渡り歩いて高給と高額の退職金を得て、OBになってからの10数年間で3億円を超える収入を手にした者もいる。にもかかわらず、それらの天下り団体に年間12兆円を超える国費が補助金として注ぎ込まれている。

 また、年間約15兆円に上る国から地方への交付金の配分が官僚の裁量で行われているのが補助金行政である。地方が行う事業に対する国の補助金は50%前後であり、残りは地方が独自に財源を確保しなければならない。特に道路や橋や建築物はそれぞれ細かい設計基準が設けられているために事業費がかさみ、地方は大きな借金を抱えることになる。

 こうして見ていくと、日本の国と地方の借金合計がGDPの2倍近い約900兆円にまで膨れ上がった要因が透けて見えてくる。官僚依存の政治による官僚支配体制がそれだ。だからこそ国民は昨年の夏、自民党に代えて民主党に政権を託したのであり、官僚の聖域と化している特別会計には何としてもメス入れなければならない、とボクは思う。特別会計こそが官僚利権の温床だからである。

 振り返ってみると、保守合同で1955年に誕生した自民党は、政権担当が長くなるに連れて官僚依存が強くなり、行政は勿論のこと政策立案まで官僚に頼るようになっていった。その癒着構造を利用して官僚が進めてきたのが権限を手元に置く補助金行政であり、併せて作り上げてきたのがOBになってからも安定した収入を長期間にわたって得るための天下りシステムである。それが低成長期に入った今日まで連綿として続いて国民生活を不安にしている。そう断言しても決して過言ではないと、ボクは確信している。

 そうした中で現在、政権与党の民主党が大揺れに揺れている。
 党規に則った代表選挙が行われているのだが、現代表で首相の菅直人氏と前幹事長の小沢一郎氏が熾烈な戦いを繰り広げている。菅氏の「財源が不足しているため、マニフェストの修正はやむを得ない」という主張に対し、小沢氏は「国民との約束(マニフェスト)は守らなければならない。財源は大胆な予算組み替えをすれば出てくる」と主張して、真っ向対決している。

 その情況に乗じた、小泉時代に癒着を深めた官僚組織と大手メディアによる小沢氏に対するネガティヴキヤンペーンは呆れ返るほどひどい。間接的に誹謗中傷するだけでなく、彼らが国民の声として発表している世論調査の結果が怪しいのである。
 これといった成果も挙がっていない状態にも関わらず菅内閣支持率がこの二週間で
20ポイント近く上がった。首相に相応しいのは「菅氏6575%、小沢氏1418%」という調査結果をすべての大手メディアが繰り返し発表しているが、インターネットサイトのアンケート結果はまったく逆の「菅氏1020%、小沢氏7090%」だから不思議だ。ちなみに調査母体数は大手メディアが500〜1000で、ネットの方は3000〜30000である。

 また、「小沢氏には政治資金疑惑がある」という報道を執拗に繰り返して「小沢=金権政治家=悪」というイメージを増幅しようとしている。この事案は東京地検特捜部が二年にわたって追跡し、強制家宅捜索までした結果に「不起訴」となったものなのに、である。

 官僚と大手メディアの動向を注意深く視ていると、彼らはともに小沢氏が首相になると都合が悪いようである。小沢氏の政策実行によって彼らは既得権益を失うことを恐れているように、ボクには見える。参考までに、2008年の大手メディア社員の平均年収は主要民放テレビ5局が1345万円、5大全国紙が1170万円だった。

 民主党の新代表は9月14日に決まるので、この稿が掲載される頃には結果が出ている。
「国民の生活が第一、脱官僚支配・政治主導、対等な日米関係」の政策実行を望むボクは、小沢一郎氏が勝って首相になり、その豪腕ぶりを発揮してくれることを期待している。

                             [2010年9月]