北米報知新聞(NorthAmericanPost)連載エッセイ
      都筑大介 「一言居士のつぶやき」

     第18回 鈍色(にびいろ)の冬空 
            (2010年12月15日掲載)



 1128日に行われた沖縄県知事選挙では、懸案の米軍普天間基地に関して「県外移設」を提唱する現職の仲井真氏が「国外移設」を目指す前宜野湾市長の伊波氏との接戦を制して再選を果たした。日米合意の「辺野古への県内移設」を主張した第三の候補の得票率はわずか2%に過ぎなかった。菅首相も関係閣僚も「誠意を尽くして沖縄県民を説得したい」とコメントしたが、日米合意は事実上向こう4年間棚上げされる情況となった。

衆参ねじれ国会という難しさもあって菅民主党政権は国会運営に行き詰まり、臨時国会で成立した法案は提出数の38%という史上最低を記録した。にもかかわらず、庶民の家計に北風が吹いているのにまたも増税論議を活発化させ、自民党ですら躊躇していた武器輸出禁止原則の見直しに着手。特別会計の事業仕分けも小手先だけに終わり、官僚の天下りも公然と行われている。これでは、一体誰のために何をしようとしているのか、自公政権時代よりもひどい状況になるのではなかろうか、と心配になるのが自然の理だろう。

 その菅内閣の支持率低下に歯止めがかからない。発足直後に60%半ばだったのが今や20%台まで降下し、党の支持率も著しく低下している。参院選大敗後も相次ぐ地方選挙で連戦連敗。得票情況を眺めて見ると特に無党派層の民主党離れが著しい。尖閣諸島と北方四島の領有権を巡る戦略なきその場しのぎの弱腰外交と拙劣な国会運営が支持率低下に拍車をかけ、菅民主党政権はまさにメルトダウン寸前となっている。

 ところが、当の菅首相はじめ閣僚や党執行部までが選挙敗北と支持率低下の原因を「小沢氏の政治とカネの問題が影響」と分析する。ボクから見れば責任転嫁以外の何ものでもない。支持離れの真因は、「政治主導」は掛け声だけで自民党以上に官僚依存を強め、「国民の生活が第一」という公約(マニフェスト)をなし崩し的に反故にしてきたことにある。現実から目を逸らして責任回避と保身に走っていては政権浮上もありえない。

 国のトップになる政治家には明確な国家観と強いリーダーシップが望まれるが、残念ながら菅首相にはどちらも欠けていることが明白になってきた。とはいえ、今すぐ彼に代わって日本を牽引していける政治家は与党にも野党にも見当たらない。

そこで「今日の国際社会において最も卓越した手腕を持つ政治家の一人であり、ヨーロッパには彼に比肩し得るリーダーは存在しない」とアムステルダム大学のウォルフレン教授が評した小沢氏に期待がかかる。
 しかし、秘密のベールに包まれ議事録すらないという検察審査会によって強制起訴されているために、裁判が決着するまで彼が復権することは難しい。改めて述べておくが、小沢氏に対する嫌疑は検事総長が「有罪とする証拠はない」と明言しているように冤罪であり、小沢封じの悪質な策動だ、とボクは確信している。

 その小沢氏を戦後日本で最も著名な評論家の江藤淳氏は生前次のように論評した。

「小沢一郎というのは不思議な政治家で、政策を実現することが第一義であり、自分がいつ首相になるかは二の次である。政策実現こそが緊急課題だということをハッキリと打ち出している人間が出てきたということは戦後日本の政治史上まことに驚くべきことだ」

 ここに小沢氏が執拗に攻撃される理由がありそうだ。なぜなら、彼が実現しようとしている政策が長年甘い汁を吸ってきた連中の権益を侵すものだからである。米国もまた彼が最高権力者になることを警戒している模様だ。あらゆる面で日本を実質的な属国にしておきたい思惑が崩れるからだろう。

小沢一郎という政治家は、反米主義者でも社会主義者でもなく時代を読める保守政治家であり、日本の舵取りを委ねることが出来る貴重な人材である。その彼を排除しようとする動きが盛んなのはおかしな話だ、とボクは思う。特に大手メディアがひどい。第3の権力と言われる彼らが果たすべき本来の役割を忘れ、自らの権益を守るためにどこかの誰かの意を汲んで事実をゆがめる恣意的報道を続けている。

去年の政権交代を歓迎した大手メディアは、今の閉塞感を払拭するには過去からの政治行政手法を改めなければならないことを重々承知しているはずである。その彼らが小沢封じの次は民主党潰しだとばかりに政権批判も強めていることは、果たして国益に叶うことなのだろうか。普天間問題も日米合意を守れと主張して民意を無視し、北朝鮮拉致被害者問題はすでに終わったことのように触れない。国と国民のために光明を見出そうとする姿勢はなく、いたずらに世論を誘導している。日本という国が彷徨する最大の原因は彼らの不健全性にあるとさえ考えて見上げる年の瀬の寒空には鉛色の雲が立ち込めている。



                            (2010年12月)