北米報知新聞(NorthAmericanPost)連載エッセイ 都筑大介 「一言居士のつぶやき」 第20回 春一番 (2011年2月16日掲載) 暦の立春を過ぎた頃に南から強く吹く『春一番』は、毎年、冬の終わりが近いことと間もなく訪れる春の温もりを感じさせてくれるが、菅政権にとって今年の春一番は冷たい北風だった。 2月6日に投開票された名古屋市長選と愛知県知事選において民主党候補者はともに地域政党代表にトリプルスコアの大差で敗れた。先の衆院選ではすべての小選挙区を制した民主党王国でのこの結果は、民意の民主党離れが加速したことを意味しており、4月の全国統一地方選挙で民主党の地方組織が壊滅的打撃を受ける気配が濃厚になった。 今年の年頭会見で菅首相は、「平成の開国」「最小不幸社会の実現」「不条理を正す政治」の三つを国づくりの理念として掲げた。が、その意味するところは、米国の要請に沿ってTTP(環太平洋パートナーシップ)へ参加し、税と社会保障の一体改革で消費税を上げ、小沢氏に離党か議員辞職をさせるというのだから、ボクは呆れた。 この菅直人という人は実に面白い政治家である。いや、おかしな政治家と言うべきかも知れない。 賢人が過ちを悟って改めることを『君子豹変』というが、それとは異なり、国民が政権交代に期待したことを忘れて権力維持にのみ汲々とする「カン違い政権」の様相を呈していては民意が離れるのも仕方がない。 外交においても暴言のオンパレードだ。 その菅首相がガムシャラに参加しようとしているTTP(環太平洋パートナーシップ)協定は、人・モノ・サービスの例外なき関税撤廃が前提であり、2国間のFTAのように例外品目は認められない。 日本が参加した場合の日米両国のGDPと貿易量が参加国全体の90%を超えることを見ても実質的には日米2国間の協定であり、FTAでは埒が明かないと判断した米国が多国間協定を仕掛けてきているものだと思うのはボクの穿ち過ぎだろうか。 大手メディアは「TPPに参加すれば輸出が増えて日本は良くなる」「参加しないと日本は世界の孤児になる」などと参加を煽るばかりで、TTPの具体的な内容やマイナス要素については一切報道しない。 その一方で現政権の目線が国民の方を向いていないことに気づいた人がネット社会を中心にして急増している。それが愛知名古屋の春一番を巻き起こしたのではないだろうか。政界再編への序章が始まったようだ。 (2011年2月) |
---|