つれづれなるままに
仕事で出かけたヨーロッパ出張の道中に書きためたものです(2000年11月作成)。
☆ サマータイム最終日の機内にて ☆
ヨーロッパ直行便のフライトは、太陽を追いかけて飛んでいく。まるまる12時間以上かかるフライトであるが、昼ごろに成田を出発した便は、その日の夕刻には現地に到着する。そう、時差があるのだ。約8時間。こいつがなかなかやっかいなもの。機中ではひまつぶしにウトウトとしている時間が多くなるが、あまり寝てしまうと、到着後に昼夜が逆転してしまう。また、フライト中には軽食をはさんで食事が3回、これに朝と現地での夕食を加えると、1日5食となり、これもリズムを狂わす原因である。もっとも、ダイエットをライフワークとする方々には、よくある食事パターンかもしれないが・・・
今回は、なるべく起きているように心がけたが、2回の映画上映にあわせて、明かりと窓のブラインドを降ろされてしまい、不覚をとってしまった。さらに、その眠りも、団体旅行のミセスたちのハイテンションに、中途半端に邪魔されるという、最悪のパターン。
集団、買物、非日常、この3点セットがそろった時の彼女らの変貌ぶりは、どこからくるのだろうか。機内販売の免税品の購入をめぐって、ああでもないこうでもないと、ほぼフライトの半分を費やすほどのエネルギー。そして、機内サービスで無料のアルコール類の空缶の山。もっと別なことに、有効に利用すれば日本の未来も安泰なのに・・・・
ほら、サンプルを持って何度も往復させられているスチュワーデスの笑顔が、そろそろ、ひきつっているではないか。
☆ 落ち葉のつもる石畳にて ☆
ヨーロッパの日曜日は、ほとんどのお店がお休みになる。移動日の半日を、チューリッヒの市内巡りにでもと思ったが、ここもご多分にもれず、日曜日の街は閑散としている。商店ばかりでなく、観光スポットである教会や聖堂なども、この日ばかりは、本業のためか観光客お断りである。しかたなく、街中をあてもなくブラブラと歩いてみた。
ところが、こんな日にも、すてきな贈りものがちゃんと用意されている。それは、鐘の音である。街のあちこちに頭をのぞかせている、尖がり帽子の時計台や鐘つき堂が、次から次へと鳴り始めるのである。石畳の狭い路地の向こうから、突然に聞こえてくるその音に、思わず足を止めてしまうこともあった。
ところで、ほとんどの店がしまっている街中で、唯一みつけた営業中のお店、それは、この日のランチに利用した、マクドナルドであったのは、話のオチとしては、いまいちかな・・・・
☆ アルプス山脈のどまんなかにて ☆
ヨーロッパには、東京都の広さにもみたない小さな国がいくつもある。スイスとオーストリアに挟まれた、リヒテンシュタインもその中の一つであり、欧州大陸内では、小さい方から数えて4番目になるのだそうである。国内には空港も鉄道も無く、スイスから車で国境となるライン川の橋をわたっての入国となるが、特に検問所もゲートも無いため、別の国に来た感じはまるでしない。通貨もスイスと共通である。どうしても、入国審査が受けたい人は、首都(といっても議会の建物があるだけ)のファドーツの案内所窓口まで行って、2フラン(約140円)を払うと、パスポートに入国スタンプを押してくれる。この窓口に行って初めて、スイスの入国審査ではスタンプを押されなかったことに気がついた。今回の出張では、唯一の入国証明というわけである。
山国であるため、平地はライン川沿い少しあるだけで、反対側のオーストリア国境にかけての山岳地帯の斜面に、へばりつくように集落が点在している。今回の宿は、その斜面を少し上ったところのトリーセンベルグである。スイスの集落では、必ずといっていいほど、とんがり帽子の教会がみられたが、ここは屋根がマッシュルームのような丸みを持つ、ロシア正教の教会である。
ここらあたりはドイツ語圏であり、英語がほとんど通用しない。案内の表示もすべてドイツ語であり、宿の人もカタコトの英語がしゃべれる程度であった。それも、英語で話しをしている途中から、いつのまにかドイツ語に変わってしまったりで、ただでさえ貧弱な私の語学力では、頭が混乱するばかりである。ドイツ語の知識など、学生時代に第2外国語の単位を取るために、カンニングをしながら追試をかろうじて通った瞬間から、きれいさっぱり忘れている。
男女の表示だけは必要にかられて、なんとか覚えた。DAMEN、HERREN。それでも、一瞬は考えないと、ことばの感じからは反対と思ってしまう。うっかりまちがえてドアをあけてしまったら・・・・・
☆ 雪をいただく山すそを走る1等車の車内にて ☆
ヨーロッパは、日本と同じように鉄道網が発達している。スイスはそのなかでも、特に便利であり、ほとんどの都市や観光地は鉄道で結ばれている。運行の大部分は国有鉄道であり、一部私鉄もあるようだ。利用してみてまず気がつくのは、駅に改札が無いことである。20番線以上あるような大きなチューリッヒ中央駅でも、ホームへの出入りは自由である。そのかわりに社内の検札があり、切符をもっていないとそれなりの罰金を取られるようである。個人を信用はするが、裏切ったときの代償は、大きいということだろうか。最初から信用しない我が国の改札システムと、どちらが進んでいることになるのだろうか。
列車内は、1等と2等に分かれ、さらに喫煙と禁煙とがある。おもしろいのは、1つの車両の中で、透明な仕切りをはさんで、喫煙席と禁煙席が別れていることである。大体、1:3〜1:2ぐらいの比率であり、禁煙席の方が広い。これは、喫煙率がそれなりに低い国ということを意味している。確かに、日本のように歩きながらたばこを吸っている人は少ないし、道端に吸い殻がころがっていることもあまり無いようである。たばこの看板も見当たらないようなので、法律で禁止されているのかもしれない。
たばこに限らず、商店街の通りでも、広告看板は少ない。表には店の名前が書いてある程度で、宣伝は、もっぱらウィンドウディスプレーである。これは実にバラエティーに富んでおり、見ていてあきない。単に商品を並べているという以上に、センスの良さを感じる。
ただ、悲しいかな、ドイツ語の表示が読めないため、おもちゃ屋だと思って入ったら、お菓子屋だったり、洋服の店だと思って入ったら、インナーウェアーの店だったりするのは、ちょっとご愛敬か。
☆ 大通りのベンチにて ☆
ヨーロッパの時差にようやく慣れたと思ったころ、帰国となるのが、仕事で短期出張をしいられたときのパターンである。最終日は夕方の出発便であるため、リベンジをきしてチューリッヒ市内でのショッピングとなった。先日の日曜日とはうって変わって、平日の昼だというのに街には人があふれかえっていた。とてもすべてが観光客とは思えない。その証拠に、観光客にはあまり関係ないと思われるデパートの中まで、人々でいっぱいである。くだんのマクドナルドの前では、通りにまではみだしてハンバーガーをぱくついている人たちがいる。乳母車を押した家族連れが、通りすぎる。
こちらの人たちは、平日に仕事を休んでショッピングを楽しんでいるのだろうか。それにひきかえ、休みをつぶして出張をこなす自分たちは・・・・
感傷にひたっていてもしかたがないので、とりあえずの最低の義務として、子供たちへのみやげものをさがす。みやげもの屋には、それらしい物がたくさん並んでいるが、きをつけないと、スイス製でないものを買ってしまう。かわいげなぬいぐるみ類は、ほとんどが中国製、アルプスの風景が刺繍された敷き物は、オーストリア製。といって、あちこちに置いてあるスウォッチは、日本にもあるものだし、結局、どこで作っているのかはよくわからない、カウベルのミニチュアに落ち着いた。そう、牛が首からさげて、のどかな音をだすあれである。
市内での買い物がすんでから、しばらくの間、路面電車の行き交う表通りのベンチに座って、ヒューマンウォッチングを行ってみた。すぐに気がついたのは、東洋人がほとんど見られないことである。たまに見かけるのは、カメラをぶら下げた、明らかに日本人と思われる観光客だけである。これが、アメリカの街であったら、かなりの割合で、中国系の人たちを見ることが出来る。ヨーロッパで労働力として増えてきている、アフリカ系の人たちもほとんど見かけることはなかった。白人の人種の識別まではなかなか出来ないが、大部分が、ヨーロッパ大陸の人々と思われる。これは、植民地を持たず、EUにも属さない中立国であるスイスならではの現象だろうか。
次に目につくのが、携帯電話を使っている人の多さである。日本のように、ねこもしゃくしも、と言うほどではないとしても、老若男女を問わず、かなりの割合と思われる。街かどの公衆電話ボックスには、キーボードがついたパソコンのような端末が置いてあるし、案外この国は、情報先進国のようである。そういえば、空港の待ち合い室にも、パソコンを並べたコーナーが設けられていた。
それでも、いきなり裸の自動小銃を肩に担いだ迷彩服の一団が通りすぎると、平和ぼけした日本との差を、感じずにはいられなかった。
☆ 帰りの機中はアベックのとなりにて ☆
ヨーロッパに限らず、外国の紙幣は一般に、日本のものと比べてひと回り小さいサイズである。以前におみやげとして、ブランドもののお札入れを買ったことがあるが、日本円では長さが入りきらず、無用の長物となってしまったことがある。それ以降、外国でお札入れのを買ったことはないが、国内で売られているブランド品は、日本向けの特別仕様なんだろうか。日本仕様のブランド外国製品を、ありがたがって使う日本人というのもあんまりいただけない気がするのだが。
お金といえば、海外旅行に両替はつきものである。さすが世界の銀行スイスだけあって、空港の両替所においても、いろんな通貨の間での両替が可能である。円を出してポンドを買うようなスイスフランとは関係ない両替でも、自由に行うことが出来る。円からの、または円への両替程度しかできない成田とは、かなりの違いである。ただし、端数のコインについては、どんな両替を行ってもスイスフランとなってしまうのは、しかたがないだろう。 今回は到着時間が遅いので、あらかじめ成田で両替をしていったが、コインは現地でしかもらえないのがちょと不便なところだ。到着後に、早速、駅のキオスクで小銭づくりをおこなった。コインロッカーや有料トイレなどには、コインが必須である。
ところで、スイスフランのコインは、5F,2F,1F,1/2F,0.2Fなどと多くの種類があるが、円と違って、色も材質もほとんど同じである。当然、額によって大きさと厚さは違っているが、少額のものほど小さいというわけではなく、慣れない旅行者には、やっかいなしろものである。いきおい買い物では、紙幣を出してお釣をもらうということが多くなり、しだいにコインがたまっていってしまう。
ご存じのように、コインは両替をすることが出来ないので、余ってしまえばおみやげに持って帰るしかない。ドルならばまたの出張のために、取っておくということもあるが、次にスイスへ来る機会があるかどうか、わからない。こんな時は、だいたいは空港内の免税店で、おかしなどの土産物で使ってしまうことになるが、紙幣の方もまだそれなりに余っていたので、今回は一計を案じた。
ブランド品を扱っているブティックで、適当なものを探す。目標は、手持ちの現金では少し不足する値段のものである。ターゲットが決まったら、色や生産地などのやりとりを店員と行う。話は、あまりしつこく無い程度に切りあげて、買うむねをつげる。そして、いよいよ支払いである。現金で購入することを告げて、紙幣を並べていくが、当然値段にはとどかない。このとき、財布の中に、カードがはさんであることを見せてはいけない。ちょっと困った顔をして、小銭入れを取り出して中をのぞく、数えてみるがわからないので、カウンター上にすべてとりだし、店員の顔を見る。この段階で、相手が笑っていたら、無事交渉は成立である。It's
my final shopping.とか、気のきいた一言が添えられれば、うまくいく確立は、さらに高くなる。
この手でどのくらいまでディスカウント出来るかはわからないが、今回は数%で問題無かった。you
are lucky!とかいって、相手も笑っていた。ちなみにゲットしたのは、カシミヤ100%のマフラーである。
さて、交渉上手なあなたなら、何%ぐらいまでいけますか?
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