つれづれなるままに


第12題 スイスアゲイン

ヨーロッパも異常気象にみまわれていました(2003年7月作成)。


○異常気象のヨーロッパ

 ここ数年の恒例となった仕事でスイスを訪れている。

 毎度のことながら、12時間超といううんざりするフライトを経て、たどりついたチューリッヒの街は、30℃を越える暑さの中だった。 今年のヨーロッパは異常気象が続いており、ここスイスでも各地で30℃を超える暑さとなっている。 フランスでのコンフィデレーションカップ開催のころから、このニュースは日本にも流れていたが、もう1ヶ月以上になるらしい。

 さすがに山国スイスであるので、ほとんど必要のない冷房設備は普及しておらず、車も窓を開けて走り去っていく。 さすがに特急列車やバスでは、冷房がきいていたが、停車中は電源を切っておくことが一般的らしく、始発駅のチューリッヒで乗り込んだ列車の社内はむっとしていた。

 すでにこちらの女性は、露出度大のキャミソールが主な夏の装いとなっていたし、チューリッヒからクールへ向かう列車の車窓からは、湖畔で泳ぎに興じる人たちの姿があちこちに見られた。 この列車移動の時間はすでに夕方6時を過ぎていたが、北海道よりさらに緯度の高いこの時期のスイスの日の入りは9時過ぎとのことで、まだまだ真昼の明るさと気温である。 線路ぎわの家々の庭でも、デッキチェアで寝そべっている人たちが多い。

 概してヨーロッパの北半分の国々では、冬場の日照時間が極端に短くなるためもあってか、日光浴を好んでするようである。 日本人にとっては、すこし肌寒いような気温でも、平気で肌をさらしていられるのは、体の防寒構造そのものにも差があのだろう。 こちらの人たちの肌は、日本人のきめ細やかな感じに比べ、全体にごつごつとしてたくましい感じがある。ときどき、挨拶で握手する手も、肉厚な印象を持つことが多い。

 そうそう、日本人のする握手は、外国人には印象がよくないそうだ。 相手の顔を見ない、しっかり握り返してくれない等々、嫌われているような態度にも思えるそうだ。 文化が違うと、簡単なコミュニケーションもなかなか難しいものである。

 

○避暑地の風景

 今回の宿泊場所は、スイス南東部に位置するLenzerheideという山あいの地である。 日本のガイドブックでは、どれを見ても、その名前すら記載されていない山間部のスキー&避暑地である。

 チューリッヒから列車で南部の都市クールまで行き、そこからポストバスに乗り換えて谷間沿いの街道を40分ばかり上る。 標高は1500m近くある谷間の町で、両側の山麓はスキー場となっている。 その頂上は、2800mに達する。 ホテルがいくつか並んでいるので、主にリゾート業をなりわいとしているようである。

 宿泊したホテルは、普通のホテルタイプの部屋と、長期滞在型のキッチンまで備えた部屋(ドイツ語ではアパートメントと表記されている)とに分かれている。 部屋数では、圧倒的にアパートメントが多いので、もうすぐ始まるバカンスシーズンは、長期滞在の避暑客でにぎわいそうである。 スキー場の一角には、トレーラーハウスが並んでいるところがあり、こちらはエコノミー派の避暑客向けか。

 スキー場以外の山肌のあちこちには、牧草地が点在しており、牛のむれがのんびりと草を食べている。 首にぶら下げたカウベルが、ガランガランとのどかな音を立てている。ところどころは、馬の放し飼いも見られるが、スイスではついぞ馬肉の料理を見かけたことがないので、乗馬用や荷役用として利用されているのかもしれない。 これだけの急傾斜地になると、あちこちに置いてあったバギータイプの車でも、自由には動き回れそうもない。

 ホテルはこざっぱりとして綺麗であるが、まわりが牧草地に囲まれているためか、とにかくハエが多いのにはちょっと悩まされた。 さすがに宿泊する部屋の中は駆除をしているようで、寝ているときにぶんぶんと飛び回られることは無かったが、オープンなロビーや食堂などでは、常に数匹のハエを追い払いながらという状況である。 ハエと一緒に食事をするなんていうのは、何十年ぶりのことだろう。

 

○高度の影響

 先に述べたように、1500mの高地の町である。 激しい運動をすることが無かったので、私は気が付かなかったが、それなりに酸素濃度は低いらしく、軽い頭痛がするというひともいた。 私は、さらにその先の2800mの山頂までつながるロープーウェイで上ってみたが、とくに変わったことは無かった。 webで調べてみると、標高3000mでは0mと比べて、血中酸素濃度は85%に低下するのだという。 もちろん、気温はぐっと低くなるので、それなりの服装をしていないと、表ではこごえてしまうが。

 2000mを越える山になると、ところどことに残雪が残っている。 ロープーウェイの駅からすぐ見える所まで行って触ってみた。 てっきり、ガチガチに氷っているかと思っていたが、意に反して、シャーベット状の雪だった。 さすがに間近で見ると砂混じりの茶色がかった色をしており、真っ白な残雪と言うわけにいかない。 それでも、周りの山肌に比べ太陽光を反射するためか、遠目には光って綺麗に見える。

 高度が高い特徴のもう一つに気圧が低いことが上げられる。 1500mでも0mの83%になるらしい。 持ち込んだ真空パックの食料品は、パンパンに膨れていたりする。 また、この低気圧のために、飲み水のボトルの蓋を開けるとき、しばしば失敗することになった。 そう、こちらのミネラルウォーターは、ガス入りといわれる炭酸ガスを含んだものが大部分である。 一気に蓋を開けると、振り回した後のコーラやビールを開けた瞬間のように、ガスと一緒に水が吹き出してくるのである。 少しずつ、気圧調整をしながら蓋をあけるという技を覚えることとなった。

 もう一つの低気圧の影響として、沸騰するお湯の温度が100℃にならないことが上げられる。 沸点100℃というのは、あくまでも1気圧の状態での現象であり、気圧が下がるにつれ沸点は低下する。 ここでは、90℃ちょっとで沸騰してしまうらしい。 逆に気圧があがると沸点は高くなるので、これが、高温で手早く料理する圧力窯の原理となっている。 このような高地では、電気窯でうまくご飯が炊けず、圧力窯が必要となるという話を思い出した。

 ここでの朝食は、セルフサービスのバイキング形式であるが、その中に沸騰したお湯と生卵が用意してあり、自分で好みの堅さのゆでたまごを作るコーナがあった。 でも、初めての人はだいたいが失敗作となる。 そう、沸騰している温度が低く普通の感覚で10分程度おいても、ほとんど中が固まっていないのである。

 実は、日本からカップメンを持参していったのだが、とてもまともに出来そうもなかったので、食べるのをあきらめた。 ゴミ箱にすてられた日本のカップ麺を、ルームメードはなんと思っただろうか。

 

○雨に打たれて

 出張日程の後半は、一転して濃い雲がかかり、雨がしばしば降る変わり易い山の天候となった。 気温も一気に10℃前後まで下がった。 最後の移動日も、町を離れてからチューリッヒの空港までこの空模様が続いており、飛行機は翼を雨に打たれながらの離陸となった。

 出張の間、ほとんど観光をする時間が無かったが、雨の合間にちょっと散策したチューリッヒの街並みは、以前と少しも変っていなかった。 地元の人に聞いたところ、スイスは過去の2つの大戦でも戦場となることは無かったので、どの街でも古い建物がそのまま残っているそうだ。 そのために、かえって新しい街の整備には苦労するのだという。

 そういえば、以前は駅前近くの表通りの一件しかなかったマクドナルドが、裏通りにも進出していた。 それでも、古い街の風情はほとんど変わらないところが、歴史の持つ懐の深さなのか。

 成田に降りると、曇り空ながら蒸しかえるような暑さが待っていた。 やっぱり気温によらず、じめじめむしむしの日本が、一番暑く感じられるのだった。

 


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