都筑大介 ひなたやま徒然草 8
分かち合うんじゃなかったの?
[平成17年1月]
ああ、腹が立つ……。
というのは、税務署から送られてきた確定申告の書類に目を通したからだ。
去年から所得税の配偶者特別控除が廃止され、今年から定率減税が縮小され廃止に向う。収入が少ないボクの場合でも年間6万円を超える増税だ。早速ムカッときた。
(ただでさえ少ねー小遣いを、さらに月5千円も減らせってのか!)
そして、あと二年経ったら間違いなく消費税率が上がる。二十歳の誕生日から吸い続けてきたタバコもこの頃楽しみな晩酌も、ともに量を減らさないと、たまにやる友人たちとの飲み会にも行けなくなる。
(どうしてくれるんだよー、こんちくしょう!)
ボクが目を剥いて怒っているときに、平成17年度の予算審議を行う通常国会が始まった。
予算は政策を色濃く反映するものであるはずなのだが、小泉総理が声高に繰り返す構造改革や行政改革が断行されるにはほど遠い内容である政府案は、相変わらず官僚が作成した前年度踏襲型で、大胆な経費削減はどこにも見受けられないし、歳出予算は去年とほぼ同じ82兆円規模である。
(庶民は生活を切り詰めてるってぇのに、豪勢なもんだね、お国は……)
ボクたち庶民はその上に、赤ん坊から高齢のお年寄りに至るまで国民全員が、一人当たり600万円を超える借金を知らないうちに背負わされている。我が家は三人家族だから1800万円強の借金をしていることになる。
(安い中古マンションなら、一軒買えるじゃねーか!)
にもかかわらず役人の数は一向に減らないし、給与が減ってもごくわずか。しかも減った分はこっそり裏金で賄ってしまう始末だ。細川政権以降は、国会議員定数を削減する話もいつの間にかどこかへ消えてしまっている。
(世間並みのリストラをしろッてんだ!)
廃止されるものだと思っていた国会議員年金も、見かけだけ少し変えて存続させるらしい。官僚出身者の場合、サラリーマンの厚生年金にあたる共済年金をもらい議員年金も受け取る。人によっては国民年金をもらった上にだ。
(いいよなぁ、あんたらは……)
泥棒以上に金食い虫の特殊法人には手が着かないし、たとえ手が着いても看板を架け替えるだけで実質的には数もまったく減らない。
大赤字の道路公団が民営化されても採算のとれない高速道路が作り続けられ、その子会社に至ってはほとんどが大幅黒字会社で所有する資産も多い。天下りの準備が万端に整っている。
(さんざん甘い汁吸っといて、おめーら、また退職金を受け取ろうてぇのか!)
行政機構の膿を搾り出すような抜本的な改革をやって欲しいのに、今国会最大の眼目は『郵政民営化』なのだそうだ。
郵政民営化はやるべきだと、ボクも思う。
郵便局を通して集められた膨大な資金は、特殊法人に貸し付けられて無駄な公共投資を産み、乱発される赤字国債を買い支えている。郵貯の有利な利率と国債の高い利回りが年間5〜6千億円もの税金で補われていることも含め、この流れを断ち切らない限り国の財政再建はできない。
しかし、郵政三事業を郵便会社・郵便貯金会社・郵便保険会社に分割して窓口ネット会社を新設するという政府原案を見ると、またも「見せかけだけ変えて誤魔化す」特殊法人の温存にすぎないように思えてならない。政府は表面的な説明しかしないから、郵政民営化で何が変わってどう国民のためになるのかがさっぱり見えてこない。
確かに今までと違うのは、特定郵便局の局長と局員の身分が公務員から民間人に変わる点だけである。しかしこれも、自民党にとって最大の集票マシーンである大樹会(特定郵便局長の全国組織)と郵政族議員が異を唱えているから、この先どう決着するか分からない。
ちなみに、民営化されても郵便局の窓口では今まで通りに郵便も貯金も保険も取り扱い、貯金と保険は郵便貯金会社と郵便保険会社から委託を受けた窓口ネット会社の社員が行うらしい。しかし、全国に何万もある郵便局に社員を派遣できるはずもないし、結局は郵便局の局員が窓口ネット会社から再委託されて貯金と保険の業務にあたることになりそうなのである。
つまり、郵便局は今までと同じようにやれる。ということは、組織形態が変わっても実態は以前となんら変わらない。それなのに郵便局は今までやれなかったコンビニを併設するような新規事業が許されるという。「焼け太り」という言葉があるが、どうもそうなりそうなのだ。
民営化担当の竹中大臣は「郵政民営化によって国家公務員の数が大幅に減少し、行政改革がすすむ」と豪語しているが、その実は右の器に入っていたものを左の器に移し替える誤魔化しにすぎない。
民営化によってメガバンク四行の合計より大きな資金量を持つ新らしい銀行と保険会社が誕生する。
しかし、その新会社の経営を健全化しようとすると150兆円を超える国債をいつまでも抱えてはおれないだろうし、それを市中に手放せば国債相場が大暴落して国の金融システムが壊れてしまう危険性もある。現在の郵貯や簡保が特殊法人に貸し付けている融資金はそのほとんどが不良債権化しているらしいから、新会社自体がたちまち倒産の危機に瀕することだってありうる。にもかかわらず、このあたりの見通しは誰も語ろうとしないし、「先のことなど分かるはずがないじゃないか」と居直っているようにも見える。
それに現政府としては、新会社をすぐにフリーハンドにはできない理由があるらしい。それは多分、新会社に勝手にさせれば公共投資を現行規模で行うための財源がなくなるし、買い支える相手が減れば毎年30数兆円もの赤字国債発行がままならなくなる、という事情だ。
(だからなんだ、完全民営化まで十二年間も移行期間を設けてるのは……)
少々乱暴な考えだけど、ボクが小泉さんならこうする。
貯金事業は銀行に、保険事業は保険会社に、ついでに郵便事業も宅配会社に売ってしまう。そうすることによって国の収入を増やして727兆円もある国債という形の国の借金を減らし、当然総務省の役人の数も減らす。
(小泉さん、「官から民へ。民にできることは民の手で」というのがあなたの持論だったはずだよね)
話は変わるが、最近の世論調査での国民の関心事は『年金』が約40%、『景気』が約30%で、『郵政民営化』は5%前後。複数回答の5%というのは単一回答だとほとんどゼロに近い数値である。
つまり、大多数の国民が「老後にかかわる年金と景気回復策をやってくれよ」と言っている。それでも小泉さんは『郵政民営化』こそ最優先課題だと言う。
多分小泉さんは、「年金問題は去年で終ったし、景気は少しずつ回復してるじゃないか」と思っている。とすれば、保険料率を上げて給付を減らした年金法改正と人員削減リストラで好転してきた企業の決算に満足している、ということになる。その犠牲になっている人たちの痛みには関心がないということだろう。自分たち政治家と役人は痛みを受けないから平気らしい。
(小泉さん。あんた、冷たい男だね)
拉致問題も北朝鮮との交渉が上手く進まなくなった途端に腰を引いた。経済制裁に踏み切る気もなさそうだ。そして今は皇室の『女帝』問題に関心を示している。
(自分の人気と政権の維持につながりゃ何でもいいんだ、この人は……)
そう思わざるを得ない。
いつも威勢のいい改革言葉をぶち上げるが、小泉さんが政治家としての信念と具体的な考えがあってやっているとは、とてもボクには思えない。
彼が手を着けた改革はどれもこれも諮問会議とやらに丸投げされ、結果はすべて抵抗勢力との妥協の産物になる。名をとって実を渡している。その裏で、官僚主導の巧妙な増税案がどんどん成立している。
(小泉さん。あんたがエエ恰好してる間にこっちは干上がってきてるんだぜ)
とまぁ、こんな風にこの頃ボクは、小泉さんが言うところの「痛み」をひしひしと感じている。ボクに限らず、世のオヤジ族に共通する悩みだろう。
(小泉さん、「痛みを分かち合って」という言葉はどこへ行ったの?)
それから年金についてだけど、こうしたらどうだろうか。
日本国憲法はその第二十五条第一項で「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と謳っている。それを実現する方法だ。
1.国民全員が必ず保障される老齢年金(基礎年金)を設け、支給額は現在の生活保護基準額とほぼ同等な一人当たり一か月6万円とする(夫婦二人の場合、毎月12万円が支給されることになる)。その財源はすべて国税でまかなうこととし、国民から個別に年金保険料の徴収はしない。……税源として消費税率を上げる。ちなみに我が家はボクと女房殿が二人で毎月26,600円の国民年金保険料を払っている。仮に消費税率が5%上がったとしても、払う必要がなくなる年金保険料と同額の消費税をとられるには毎月53万円の買い物をする必要がある。そんな贅沢はしたくても出来ないから、間違いなく今より生活が楽になる。
2.基礎年金を上回る収入(上乗せ年金)を望む者は、現在の国民年金や厚生年金のように個別に保険料を支払い、その支払い期間と額に応じて上乗せ分を受け取れるようにする。尚、この上乗せ部分に関しては、(行政コストを軽減するために)国は扱わず、民間保険会社が扱う。
極めて単純な発想だけど、こうすれば年金官僚や自民党の族議員たちが言う「自営業者の収入が正確に把握できない現状では年金制度を一元化するのはむつかしい……云々」も関係ないし、悪行の限りを尽くしている社会保険庁もいらなくなる。
行政改革と民業活性化が出来るし、上乗せを望む庶民にとっては掛け金を払うことが後の楽しみにつながる、この案はどうでしょうかね。
それにしてもこの国は、この先、どうなっていくのでしょうかねぇ……。
ともかく今日は、
「痛みのこもった思念」を「痛みから逃げている」永田町と霞ヶ関へ飛ばして、この稿を終わりにしたい。
それにしても、ああ、腹が立つ……。
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