都筑大介 ひなたやま徒然草 12 

 堕落したのは政治家だけじゃない






 四月の下旬に讀賣新聞が「戦後60年」と題して、全国世論調査を行った。その結果がなかなか興味深かったので、いくつか紹介しながら、いつものようにボヤいてみたい。
 新聞の解説にもそう書いてあったが、まず目を引いたのは『戦後60年の問題点』という項目である。トップは「犯罪の増加(61%)」で、次が「政治家の質の低下(51%)」、そして「道徳心や公共心の薄らぎ(48%)」と続いている。また、『日本の将来は明るいか、暗いか』という問いに、55%が「暗い」と答えている。そのうちの58%が「政治家の質の低下」をその理由に挙げている。

 まったく同感である。今の政治家が頼りないから――自己保身と権益確保に腐心するだけで国民を顧みない連中が多いから――日本国民の大半が先行きに不安を持つのも致し方ない。

 じゃあ、どんな政治家であれば国民は安心できるのか?

 それは、『戦後日本の発展に功績があった人物』という項目に一つの答えがあった。トップは「田中角栄(19%)」、次が「吉田茂(16%)」、そして「佐藤栄作(9%)」。今の小泉さんの名前も挙がっているが、2%に過ぎない。実行力の違いをみんな良く分かっている。

 さらに、『首相に相応しい政治家』という質問では、小泉さんは3位(16%)だったが、「石原慎太郎(31%)」と「安倍晋三(29%)に大差をつけられた。首相就任時とは様変わりだ。「実行力」「説得力、つまり説明能力」がキーポイントということだろう。
 小泉さん自身の印象は、「看板倒れであまり実績を上げていない(57%)」、「重要な政策を官僚や審議会に丸投げしている(54%)」、「発言にすり替えや誤魔化しが多い(64%)」とのこと。みんな良く見ている。その一方で、小泉さんは人柄がいいと思われているようだ。「人情味が薄く冷たい」の26%に対し、「庶民的で親しみやすい」は63%に上る。

 この点は先の田中角栄さんの場合と共通しているが、果たしてそうなのか? ボクには、国民の多くが小泉さんと彼のブレーンが巧みに演出した「幻想」を見せさせられているように思えてならない。その成果が、政策立案力やそれを実行する力より親しみやすさが小泉内閣支持率を50%前後に保たせているということだろう。

 しかし、それにしても日本という国の先行きを考えると、刹那的な感情に流されているとしか思えない「韓流ヨン様人気」と相通じるようで、とても怖い国民意識状態だとボクは思う。

 今回の調査結果の中でボクが一番面白いと思ったのは、『今の日本の政治で、最も強い力を持っているのは?』という問いへの回答である。

 トップはなんと「官僚(38%)」だった。次が「アメリカ」の26%で、我らが「総理大臣」殿は23%の3位に甘んじている。そして、「マスコミ(19%)」「財界(18%)、自民党(17%)」と続き、「内閣」に至っては官僚の三分の一の13%に過ぎない。大方の人が、小泉さんは「官僚とアメリカの言いなり」だと解っているということだ。
 小泉さんは、抵抗勢力が巣くう(?)自民党を軽視し、自分が総裁を務める自民党と闘う姿勢で人気取りパフォーマンスを繰り広げている。四年前に叫んだように「自民党をぶっ壊す」道を進んでいるように見える。そこがミソなのだろう。だから、「まだ期待している、まだ裏切られたわけではない」と思っている人が多い。それゆえの小泉支持に違いない。まさに彼は「目くらまし」の達人である。

 この一連の調査結果が示しているのは何なのだろうか、とボクは考えてみた。そして一つの結論を得た。それはこうだ。

「先の見通しを持てないでいる我々日本人の多くは、藁にもすがりたい気持ちで、小泉流キャッチフレーズが醸し出す甘い幻想に浸っている」

 ボクのこの見方を裏付ける調査結果もある。『小泉首相就任後の暮らし向き』について、58%が「変わらない」と答え、「少し苦しくなった(26%)」と「非常に苦しくなった(9%)」が続くのに、『全体としての小泉首相の実績』を評する人がまだ59%もいる。

 また、『これからの日本像』は「戦争をしない平和な国(63%)、治安が良い国(38%)、福祉が充実している国(38%)、経済発展を続ける国(24%)、国民の意見が尊重される民主的な国(22%)」がトップ5になったということは、少々うがちすぎる解釈かも知れないが、そう答えた人たちの意識の裏側には「自衛隊が戦争に参加しそうだ、ますます治安が悪くなりそうだ、福祉の切り捨てが怖い、いつまでたっても景気はよくなりそうにない、言論統制の可能性が出てきた」という密かな危惧の念がある、とボクは思う。でもその人たちは皆、「自衛隊は人道支援しかしない、年金改革をやる、景気回復の兆しが見える、官から民への流れを加速する」といった、時折々に発する小泉さんの短い言葉に期待を寄せているのだ。

 またまた小泉さんの悪口のようになってしまったが、ボクが言わんとしていることは、小泉さんを首相の座から引き降ろせということではなく、

「自民党と官僚組織の癒着を一度断ち切らなければならない」

 ということである。
そうしなければこの国は変わらない。
 その一番手っ取り早い方法が、自民党の下野、すなわち政権交代なのだ。しかし、「今の自民党の腐り加減は許せない」と思っていても、野党第一党の民主党もまだ頼りない。「ならばまだ小泉さんでいい」という現状は、「憂慮すべき、世も末な」状態である。にもかかわらず、国民には政治体制を変えるエネルギーがない。


 ボクは痛切に思う、「戦後60年が経って堕落してしまったのは、政治家だけじゃなく、ボクたち国民も堕落してしまっている」と。

                                        [平成十七年五月]