都筑大介 ひなたやま徒然草 15
こすっからいなあ、あんたらは【05年8月5日up】
「こすからい人間が話すと、どんな噺(はなし)もこすからい噺になる」
惜しまれながら他界した『五代目柳家小さん』の言葉である。
こさん師匠は生前、来年秋に六代目を襲名することになった長男の柳家三語楼さんによくそう言って聞かせていたそうである。
ボクは、三十年余り前に一度、目白のある蕎麦屋で、小さん師匠にご馳走していただいたことがある。その当時、大学の後輩でロックバンドを持っていたT君が三語楼さんと親しく付き合っていた。そのT君が、ロックと落語のコラボレーションを三語楼さんと一緒にやることになったとかで、ボクにそのステージつくりアイデアを出して欲しいと言ってきたのがきっかけだったと思う。
ある日、三語楼さん・T君・ボクの三人が目白の蕎麦屋で一杯やりながらグダグダ喋っていた。するとそこにたまたま小さん師匠が姿を見せた。その小さん師匠が、例の真ん丸顔の細い眼を更に細めて「三語楼をよろしく」と頭を下げてくれるものだから、ボクはひどく恐縮した。しかも、蕎麦ガキを肴にお銚子一本あけるとまもなく蕎麦屋を後にした師匠は、ボクらの勘定も払ってくださっていた。それが、後に人間国宝になった『五代目柳家小さん』師匠にボクがご馳走していただいたという話の真相である。
ボクは今、小さん師匠が時折りやって見せた一発芸の「ゆで蛸踊り」の表情を脳裏に浮かべながら、「人間、こすっからくちゃいけないよなぁ」と思っている。
とうとう自殺者を出してしまった郵政民営化法案……。
その法案可決に向けての官邸と自民党執行部のやり方がいかにも、こすからく、えげつない。
ボクは「民営化はすべき」と思っているが、現在審議されている「カタチだけで中味が骨抜きの法案」には反対だ。自民党議員の中にもボクと似たような考えの人や民営化そのものに反対の人が多く、彼らは懇談会グループを組んで抵抗姿勢を明確にした。
しかし、何が何でも今国会で成立させたい小泉首相は、自らは「否決されたら、民意を問うために衆議院を解散する!」と選挙が怖い議員たちにブラフをかけ、自民党執行部に命じて激しい「反対派の切り崩し工作」を行った。
法案に反対した議員は次の選挙で公認しないと脅し、連立与党の公明党に「選挙協力は致しかねる」と言わせ、裏で重要ポストの空手形と札束毒饅頭を飛ばした。その結果、わずか五票という僅差で郵政民営化法案は衆議院を通過した。
そして今、参議院審議の大詰めを迎え、小泉さんは「法案が参議院で否決されたら直ちに衆議院を解散する!」と言っている。
ここで解散となった場合、本音は反対なのに党の公認なしの選挙が怖くて賛成を表明した自民党衆議院議員たちは「いい面の皮」である。特に、投票直前まで反対姿勢を明確にしていたのに、執行部の脅しに屈して、あるいは毒饅頭を頬張って、賛成に回った八人の立場は悲惨だろう。
自殺した永岡衆議院議員は、その八人のうちの一人だった。選挙に弱い彼は、毒饅頭ではなく、公認手形を貰って寝返りを決意したと見られているが、民営化反対の支持者との板ばさみになって深刻に苦しんでいたと伝えられている。
永岡議員の不幸があった後も、「郵政民営化が改革の本丸だ」と突っ走っている小泉さんは、「継続審議は否決と同じだ。否決は内閣不信任と見なす」と言明して、強気に欠陥だらけの法案を通そうとしている。「経済制裁は宣戦布告と見なす」と日本にブラフをかけてきている北朝鮮の金正日そっくりだ。
小泉さんは何でこんなに急いでいるのか?
それがボクには理解できない。
そもそも自民党というのは、様々な考えと意見の持ち主が集っている党である。それらの人たちが意見をぶつけあって一つの結論を導き出す、民主的な組織運営をしていた。だからこそ党としての最終意見をまとめる総務会では全会一致を原則とし、それによって党議拘束をかけてきた。ところが今回は、その総務会で多数決採決をして党議拘束をかけた。だから反対派が納得せず、抵抗している。
小泉さんは、民営化法案がサミット会議へ出かける前の日に衆議院を通過するようゴリ押しした。「ブッシュさんにいい顔をしたかった」としか、ボクには思えない。毎年夏から秋にかけてアメリカから突きつけられる『年次改革要望書』に沿って、自分が努力していることを報告したかったようだ。
拉致問題はこう着状態、日中関係はメチャクチャ、韓国にも冷たい態度をとられている現状では、頼れるのはアメリカだけということだろう。しかし、景気や年金に外交といった重要課題と比べれば遥かに優先度が低い郵政民営化になぜここまで執着するのか?
小泉さんには甚だ失礼だが、ボクは「バカのひとつ覚え」という言葉を思い出す。
それにしても、小泉さんと自民党執行部が今回やっていることは、「こすからい」し、「えげつない」ことばかりである。
小泉さんの顔も、どんどん悪くなってきているようにボクは感じる。
「傲岸不遜(ごうがんふそん)」「唯我独尊(ゆいがどくそん)」「冷酷非情」「独り善がり」といった言葉がよく似合うようになってきた。
最近ボクは、そんな小泉さんにこのまま国の運営を任せていると、ボクたち国民はとんでもないところへ連れて行かれそうな気がしてならない。
彼は、アメリカとの密約と自分の美意識さえ充たされれば政策の内容なんてどうでもいい、と思っているに違いない。そのためには手段を選ばない政治家に成り下がった気がしてならない。
「こすからい人間に任せていると、どんな国でも、こすからい国になる」
国際社会の中で孤立し、周辺諸国から尊敬されるのではなく軽蔑される国になってしまうと、思えてならない。
ボクの危惧が本当になる前に、小泉さんには引き下がってもらいたい。
ボクは今、心からそれを願っている。
ボクのこの願いを実現させるのは、多分、解散総選挙である。郵政民営化法案は、今日から三日後の八月八日に参議院で本会議採決される予定になっている。是非とも否決になって衆議院の解散をして欲しい、とボクは真剣に願っている。
「我々国民にもモノを言わせろ!」
[平成十七年八月五日]
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