都筑大介 ひなたやま徒然草 19 
改革という名のリフォーム詐欺
                                     【05年9月2日up】




 情報技術の発展によって世の中は目まぐるしい勢いで変化している。世界中が、政治も経済も、社会体制も、そこに住む人々の意識と感覚も、移り変わってきている。

 ところがボクらの日本には、いつまで経っても変わらないものがある。昭和三十年の保守合同以後、連綿と続いてきた政権与党と官僚組織の癒着による官僚支配体制がそれだ。今や官僚は、省庁の利益と自分の保身に走り、国民生活を顧みない。
 だから改革の本当の本丸は「腐敗している官僚機構にメスを入れること」なのだ。


 しかし小泉さんは、「郵政民営化が改革の本丸であり、すべての改革の入り口だ」と言う。「26万人の公務員を減らす行政改革だ」と叫ぶ。果たしてそうだろうか?
 よくよく考えてみて欲しい。郵便現場の人たちはみんな懸命に働いているし、独立採算で黒字を出している。利子補給や法人税免除が間接的に国民の税負担になっていると竹中大臣は言うが、その額を社会保険庁や特殊法人の無駄遣いと比べれば、何ほどのこともない。
 いい加減なことや悪いことをしているのは、省庁の役人や特殊法人に天下った役人OBたちなのだ。彼らのクビを切る改革をやらないで、郵政関係者の身分を公務員から民間会社の社員に変えることが行政改革だというのなら、子供にだって出来る。


 元々、郵政三事業の問題点は郵貯と簡保にある。340兆円もの資金の大半が道路公団のような特殊法人に流れ、国が発行する赤字国債や財投債の受け皿になって、国民が負担した金を好き勝手に使う官僚たちの浪費天国を支えている。厚生年金や国民年金の保険料も同じだ。だからこそ、官僚天国にメスを入れないで民営化したところで、意味がない。実のない形式だけのものになる。


 ボクは、郵政三事業のうち、郵便事業は今のまま公社が続け、貯金事業と保険事業は民間企業へ売却すればいいと思っている。
 郵便事業で生じる赤字は税金で賄えばいい。
 参議院で廃案になった郵政民営化法案を「再提出する」と小泉さんは言っているが、その法案の中身は、この徒然草シリーズで何度も書いたように、郵政官僚と財務官僚の天下り先を増やすだけである。カタチを官から民に変えたに過ぎない。
 人口の二倍近い2億を超える郵貯口座の名寄せもしないで放置する法案にどんな意味があるのだろう。金持ち優遇を残した、改革とは程遠い、実にお粗末な内容だ。


 財政投融資制度が2001年に改革された結果、郵政資金は自主運用となった。
 しかし、政府財投債なるものを新設して郵政資金に引き受けさせているのだから、「カタチは変わっても中身は一緒」だ。


 郵政民営化を本気でやるのなら、入り口だけでなく、同時にあるいは先行して出口改革もやらなければならない。出口を今まで通りにしている政府案は、結局、官僚の狙いに沿った腐敗構造を温存するだけだ。民業を圧迫することも明らかだ。

 何回か前に讀賣新聞の国民意識調査に触れたが、日本の政治に大きな影響力を持っている1位が官僚、2位がアメリカだった。3位の総理大臣である小泉さんは、上位の官僚とアメリカの言うことには従順だ。

 今回は「郵政民営化に賛成か反対かを問う」選挙だと小泉さんは言うが、小泉さんのやり方は、郵政民営化以外の重要政策は白紙委任しろと言っているのに等しい。
 本当に彼に白紙委任していいのだろうか。増税、年金改悪、外交摩擦、憲法改正、自衛隊の海外派遣と、心配なことが山ほどある。


 自民党の武部幹事長は、先日出演したTV番組で「小泉総理から誰かにバトンタッチされる07年には消費税アップ」と明言した。その後、大急ぎで前言撤回したが、「政府税調が発表したサラリーマン増税という形は取らない」とマニュフェストに書くこと自体が誤魔化しでしかない。自公連立政権は、今回の選挙に勝つと間違いなく、政府税調案をお化粧直しだけして大増税に踏み切る。その時にマニュフェストとの記述を責められると、きっと小泉さんはこう言う、「その程度の公約を破っても大したことじゃない」と。

 郵政改革について小泉さんは「この程度の改革が出来なくては、もっと大きな改革は出来ない」とも言った。つまり、もっと大きな改革が後ろに控えている」ような示唆した。
 しかし、「来年九月の任期満了時が来れば総理総裁を辞めます」と言った。にもかかわらず、後見人の森前総理に「改革を進めるためには小泉さんの(自民党総裁としての)任期延長も考慮すべきだ」と言わせた。つまり、「二年後の参議院選挙も自民党は小泉総裁なんだぞ。郵政民営化に反対したら公認しないぞ」という脅迫である。自分の考えを理解してもらうのではなく、「俺に従え!」というわけだ。
 要は、財務官僚とアメリカの言う通りにしなきゃいけない、格好いい総理大臣でありたい。それだけのために、口先だけのリップサービスを続けているに過ぎない。郵政改革の後の改革は眼中に無い。


 それにしても、小泉純一郎さんが総理大臣に就任してからの約四年半。国民は様々な「痛み」を受けてきた。
 国の財政が苦しいのなら、何よりもまず歳出の大幅カットをするのが筋なのだが、それは小手先で誤魔化して、少子高齢化が明らかな将来のためにと、官僚が作成した「年金改革法案(保険料20%アップ、受給額30%カット)」を強行採決した。
 医療費負担を上げ、介護保険の導入で新たな保険料を徴収し、
 小渕内閣の時に実施した減税のうちの個人所得への定率減税は縮小廃止を決めた。にもかかわらず、法人税減税は元に戻さずにそのまま放置している。
 小泉さん、一体あんたは誰の味方なんだ? そう問いたい。


 公務員改革もデタラメだ。来年度の公務員給与を4.8%削減するというが、同時に現在の調整手当(基本給の12%)を廃止して地域手当(基本給の18%)の新設を決めた。現在の給与を100とすると、手当を加えた実質は112だった。その給与を95.2にして新しい手当を加えると112.34になる。
 なんじゃこれは? 削減ではなく増給だ。

 公務員の定員削減も口先だけだ。

 官僚と合作の公務員改革なんて所詮この程度のものだし、小泉政権が何かするたびに官僚たちは焼け太りする。この一事をとってみても、小泉さんに官僚支配の打破なんて出来るはずがない、と思う。

 国民に痛みを共有することを求めてきた小泉さんは、自分たち、政治家と官僚の痛みは避けて通っている。国会議員の定数削減や議員年金の廃止には手を着けようともしない。

「人生いろいろ、会社もいろいろ。あの社長さんは太っ腹な人だった。総理を辞めたらお墓参りをしたい」
 そう言われて存命中なのに殺された社長の会社は、議員になる前の小泉さんを雇っていないのに社員として登録して厚生年金保険料を負担していた。衆議院議員に当選した後の小泉さんは、長い間国民年金に加入せず、保険料未納だったことが明らかになった時の発言だ。
 この発言後の国会質疑で「未払いの人が遡って払えるように法改正する」と言っていたのにまだやっていない。だから、小泉さんと未納大臣たちは今も年金保険料未納状態が続いている。


「自民党と公明党で過半数がとれなければ退陣する!」
 小泉さんはそう叫んだ。
 が、ちょっと待って欲しい。過半数の支持がなければ首相になれないのだから、当たり前のことを言っているに過ぎない。
 この辺がパフォーマンス政治家の、目くらまし幻術師の真骨頂なのだ。

 解散前の議員数は自民党249に公明党34を合わせて283。それから造反者数の37を引いても246。過半数は241だから足りている。
 それなのに解散したのだから総選挙大勝に余ほどの自信があったはずだ。
 しかし、「自民党単独で過半数をとって、公明党と合わせて280議席以上を目指します」とは言わない。なんとも小心なことよ。


 年金問題に目を転じよう。

 国民年金は制度自体がすでに破綻している。それなのに厚生年金と共済年金の一元化にしか手を付けようとしない。社会保険庁は「解体して作り直す」のだそうだ。また新らしい組織を作ろうとしている。そんなムダはせずに、無くしてしまえばいいのだ。それこそ実質的に国家公務員の数が減る。

 日本国憲法は、その第25条に「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」と定めている。生活保護法もこの理念に基づいて制定された。
 しかし、である。今の年金法は、国民年金の場合、長期間保険料を払っても生活保護支給額にも満たない。それでよしとしている自公政権と年金官僚たちは憲法違反をしていると言っても過言ではない。
 憲法の精神に則れば、民主党案の「基礎年金部分を3%程度の福祉目的消費税で賄う」にボクは大賛成である。


 次に拉致問題。
 自民党のマニュフェストは120項目あるが、拉致問題解決はその108番目だ。なんとも冷たい。自国民を守る、救出するという気概はない。安部晋三さんがいつも「経済制裁をすべきだ」と叫ぶが、「不満のガス抜き」をやっているだけで、彼も本気ではなさそうだ。本気なら、今頃は小泉さんと袂を別っているはずだ。
 
かつて小泉さんは、「金正日はなかなかの好人物ですよ」と言ってブッシュ大統領を驚かせたことがある。この時にブッシュさんは、側近に「小泉は金正日に憧れているのじゃないか」と洩らしたという。

 まさか、それで拉致被害者に冷たいのじゃないでしょうね、小泉さん?


 小泉政治を別の角度で眺めると、それはまさしく「書き割り政治」である。舞台やドラマで観客から見える側は背景まで綺麗に描かれているが、裏側は釘やベニヤが剥き出しだ。それと一緒だ。

 更に角度を換えて見ると、リフォーム詐欺に酷似している。耳当たりの良い言葉とパフォーマンスで国民から金を搾り取る。
 小泉政治こそリフォーム詐欺だ、とボクは思う。

 この頃ボクはある確信を持った、ごまかしと嘘をしゃあしゃあとやってのけるのが小泉さんだと。
 自分さえ満足出来るなら、何でも平気でやるから怖い。この人の辞書には「真心」とか「誠意」とか「良心の呵責」とかいう言葉は載っていないようだ。


 このままでは日本の社会がゆがんで壊れていく。そのことが心配でならない今日この頃である。

                                        [平成十七年九月二日]