都筑大介 ひなたやま徒然草 21

        変人の最後っ屁に期待しよう 【05年10月7日up】



 四年前の二〇〇一年九月十一日、世界中を震撼させた「同時多発テロ」がアメリカで起こった。その年の暮れの中央競馬「有馬記念」では、本命のマンハッタンカフェが優勝したが2着に最低人気のアメリカンボスが入り、400倍を超える配当になった。残念ながら4万円馬券を手にすることは出来なかったが、アメリカ・マンハッタンという奇妙な一致に驚いたものだ。
 不真面目に聞こえるかも知れないが、それもあって、あの年のことはボクには忘れがたい。
 そして今年、九月十一日という日がまた、ボクにとって忘れられない日になった。今度は、法案が参議院で否決されたから衆議院を解散するという「テロ解散」後の総選挙で小泉自民党が大勝し、衆議院は自公連立与党が三分の二を超える議席を獲得してしまった。どちらのテロも、ボクには予想外の出来事だった。


 そのショックが尾を引いて、この一か月間というもの、ボクはまったく文章を書く気になれなかった。バランス感覚に優れ尚かつ賢明であると信じていた国民の審判にがっかりして、打ちひしがれていた。

 小泉さん流に「郵政民営化に賛成ですか、反対ですか」と問われれば、何度も書いてきたように、ボクは賛成である。
 しかし、政府が提出した民営化法案がいただけない。将来のグランド・デザインもあやふやで、民営化の効果が極めて薄い内容なのだ。
 そのことを国民の皆さんはとっくに見透かしていると、ボクは思っていた。が、違ったらしい。


 刺客だの何だかんだと煽り立てて、あたかも自民党の広報機関のようにタレ流し報道を繰り返し、厳粛であるべき選挙をワイドショー化したマスコミにも責任がある。面白おかしい選挙となって二十代の若者の関心が高まって投票率が上がったことは良かった。しかし、その若者たちとヨン様好みのオバサンたちが小泉劇場に酔って、衆議院の三分の二超という、憲法改正以外はどんな悪法でも成立させることが出来る議席を自公連立政権に渡してしまった。皆が小泉さんとマスコミにマインド・コントロールされたようなものである。

 ボクはこのシリーズ・エッセイに小泉改革の「まやかし振り」を書き続けてきた。今もボクの視点は間違っていないと確信している。

 小泉さんがこの四年間にやってきたことは、改革の名を借りて自民党内の対抗勢力の追い落としをしたに過ぎない。道路公団の民営化も郵政民営化もそのための材料として巧妙に使われてきた。本当の改革がなされてきた訳ではない。
 だから、カタチと看板だけ替わって中味の変わらない改革が進められ、腐敗した官僚支配体制が温存された。

 そして選挙が終った今、定率減税の廃止・給与所得控除の見直し・消費税率アップという大増税が行われることが徐々に明らかになってきている。

「話が違うじゃないか!」と、今さら叫んだところでもう遅い。向こう四年間、次の総選挙があるまで、国民のフトコロは傷むばかりなのだ。生活が苦しくなることを覚悟しなければいけない。

 小泉さんには過去に実績がある。
 健康保険の窓口負担割合を一割から二割に引き上げ、さらに三割にした。
 介護保険を導入して国民の保険料負担を増やし、サラリーマンの特別配偶者控除をゼロにして、定率減税を縮小した。
 今度は、その定率減税を廃止した上でサラリーマン所得の基礎控除を削るつもりのようだし、課税最低限の金額を引き下げようとしている。
「国がした無駄遣いのツケを国民に回す」財務官僚の筋書き通りに動くのが、残念ながら、小泉流であるのは間違いない。


 前回書いたことをもう一度書くが、今政治がやらなければならないのは官僚支配からの脱却である。
 国の主導権を「官(官僚)から政(政治家)へ」移すことが改革の本丸なのだ。そうすれば自然に「官から民へ」の流れが出来てくる。
 小泉さんは政治がやらなければならない課題の優先順序を明らかに間違っている。

 と、まあ、ぼやいたところで始まらないか……。

 とすれば、あとは小泉さんの変人振りに期待するより致し方がない。


 大物議員といわれていた煙たい連中はすべて追い出したし、チルドレンを八十三人も抱えたから、もう誰も自民党内で逆らう人間はいない。小泉さんは絶対の権力者となった。
 それなのに小泉さんは、来年九月末の自民党の総裁任期が満了した時に首相の座を降りると明言している。

 さて、そこで……だ。
 小泉さんに都合のいい環境も整った。あと一年やれば表舞台から降りる。だからこそ小泉さんには、是が非であっても「本来の変人振りを発揮してもらいたい」とボクは願う次第である。


 今までは「党内に抵抗勢力が沢山いて改革を妨げようとしている」と、小泉さんは強調し宣伝してきた。その抵抗勢力がいなくなったのだから、もう彼らと妥協する必要は一切なくなった……となれば、言わずもがな。

 議員年金を廃止し、
 国会議員の定数を減らし、
 公務員の総数を削減し、
 役人の天下りを禁止し、
 特殊法人にメスを入れ、
 国の歳出を大きく絞り込み、
 年金制度を一元化し、
 小泉さん自身が言った「痛みを分かち合う」政治を断行する時が来ている。
 だから小泉さん、思う存分にやろうじゃありませんか。


 多少皮肉が混じっているが、今日からの一年間、ボクは小泉さんに思い切り期待することにした。

                                        [平成十七年十月七日]