天高く、外れ馬券舞う秋

19戦  朝日杯
フューチュリティステークス
     (12月8日、中山芝1600m)



 道路関係四公団の改革が暗礁に乗りかかっている。
民営化推進委員会の七人の侍たちが仲間割れし、新会社の通行料収入は四十兆円にまで膨れ上がった借金の返済に充当すべきだという道路建設抑制派と新たな道路建設にも使えるようにすべきだという建設推進派の戦いとなった。委員の数は5対2で抑制派優勢なのだが、推進派の委員長が多数決で決めずに両論併記にしようと主張して揉めに揉めている。
 ところが、小泉総理は委員会の結論待ちだと嘯いた。自分の意思は示さず、揉め事を収めるつもりもない。例の“丸投げ”である。豆腐屋ハンペーのカバ頼りと大差はない。結局、委員長が辞任して抑制派の意見が委員会の最終答申となったが、「最終的には政治が判断する」のなら何のための委員会だったのか? 政治家たちが改革をやれないから民間の有識者に委ねたのではなかったのか? 小泉構造改革はどれもこれも中途半端な印象が強い。「変わらない自民党は私が潰す!」と豪語した小泉さんも裏で抵抗勢力と手を握っている節がある。自民党内に改革抵抗勢力なるものを作って自分はさも改革の旗手であるかの如くに装い、「改革なくして成長なし!」を繰り返して国民の目を幻惑するのがこの変人総理大臣の手法のように思えてならない。改革は進まず、景気は浮揚せず、自民党の旧い体制はしっかり維持されているのだから、もうこれは火を見るより明らかと言っても過言ではないかも知れない。
 一方ひなたやまでは……。
 G1必勝法の完成を目指す物書きカバこと樺山次郎考案の連対馬予想理論が除々に正確さを増してきている。“理論構造改革”は順調にすすんでいるとはいえ、カバの不肖の後輩たちは冷たいというか、クールでドライである。一度当たらないとすぐに寄り付かなくなる。

 そんな訳で、朝日杯フューチュリティステークス前夜の居酒屋『やすこ』は、四天王と貧乏学生トリオだけという、先週のあの喧騒は何だったのかとホッペタをつねりたくなるような静けさだった。
「あのさぁ、俺、あの“さもしい根性”の後輩たちを全員、出入り禁止にしてやろうと思ってんだけどさ。皆どう思う?」
 「全員……」というところで西園寺望・鷹司明仁・櫛笥琢磨の貧乏トリオがビクッとした。
「カバさん、この三人も出入り禁止なの?」
「そうさなぁ……。俺がなかなか勝てねーのにポンポン勝ちやがるのが気にいらねーし、どうするかなぁ。ツルちゃん、あんた、どうしたらいいと思う?」
「ダメだよ、カバさん。それは可哀相かわいそう)てぇもんじゃねーの?」
「ハンペー、お前に訊いてんじゃねーんだ。俺はツルちゃんに訊いてんだよ」
「カバさん、僕もね、ハンちゃんの言う通りだと思いますよ。こんなに義理堅くて律儀(りちぎ)な若者は珍しいもの。ねっ、先生」
「そうです、そうです。確かにカバさんの言う通りにこの子たちは稼ぎ頭ではあります。しかしですな。稼ぎ頭がいけないのなら、この三人と一緒にハンさんも出入り禁止にしなくてはならない理屈になる。そうは思いませんかな?」
 ニヤリとした曲者タヌキの指摘はもっともだった。
 豆腐屋の四代目はこのところ大いに稼いでいる。先週までが18戦3勝、“カバフォー”のボックス買いでマイルチャンピオンシップ・ジャパンカップと続けて万馬券をゲットしたものだから通算収支はプラス
\157,050となり、その差\1,220でトップに肉迫していた。
「せ、先生。そ、そりゃないよ!」
 今度はハンペーが慌てた。なにせカバはモノのはずみで突然何を言い出すか分かったものではないし、一度口にすると滅多なことでは撤回しないから、“モノの弾み”が怖い。
「ハンさん。私はですな。あなたを出入り禁止にしようと言っておる訳ではなくてですな。この三人を出入り禁止にするのは論理に矛盾があると言っておるのです」
「そ、そんなら、早く言ってくれなきゃ。先生も意地が悪いよな、前からだけど」
「な、何ですと! カバさん、やっぱりハンさんを先に出入り禁止にしましょ!」
「まあまあまあ。二人ともトンがらないでさぁ。朝日杯の検討と行きましょうや」
 トンがる原因を作った本人は涼しい顔をしている。ハンペーが恨みがましい眼差しをカバに向けた。

 今年の朝日杯フューチュリティステークスは混戦模様である。不動の本命と目されていたシルクブラボーが追い切り中のアクシデントで回避した。そのシルクブラボーにデイリー杯で0.4秒差の2着だったが、不利さえなければもっとキワどい勝負をしていたと思われる東京スポーツ杯勝ちのブルーイレブンも当初からの目標のラジオ短波杯芝2000mへ向かった。穴馬として密かにカバが狙っていたのがエイシンブーン。ダート戦の500万下とはいえ2着を10馬身以上千切って勝ったこの馬の潜在能力に賭けてみようと思っていたのだが感冒で出走を取り消し、カバは落胆しきりである。
 カバ流スクリーニングハードル(前3走でオープン特別か重賞を勝っている、或いは勝ち馬から0.4秒以内に好走、または500万下で2着を0.4秒以上離して圧勝)はエイシンチャンプ・コスモインペリアル・サクラプレジデント・シンボリデビル・タイガーモーション・テイエムリキサン・バロンカラノテガミ・マイジョーカー・マイネルモルゲン・ヨシサイバーダイン・ワンダフルデイズの11頭がパスした。
「あのさぁ、このレースはさ、前走で連対していることが絶対条件なんだよ」
 カバデータによると、過去十年の連対馬20頭中18頭が前走は1着で、残り2頭も前走2着である。それ故、前走3着のバロンカラノテガミとヨシサイバーダインが脱落した。
「それからさ、1勝馬の連対は十年間で2頭だけだし、その2頭は前走で新馬か未勝利を勝った余勢を駆ってのものだから、前走が2着のシンボリデビルとマイジョーカーはオミットだな」
 という次第でここまでで残ったのは、エイシンチャンプ・コスモインペリアル・サクラプレジデント・タイガーモーション・テイエムリキサン・マイネルモルゲン・ワンダフルデイズの7頭。カバはこの7頭を今回は“加点・減点”の新手法でふるいにかけた。

データ1…14頭がオープン勝ち。タイガー・マイネル減点。
データ2…15頭が芝1600m以上での連対があった。ワンダフル減点。
データ3…18頭が中2週から6週のローテーション。中9週のサクラ減点。
データ4…17頭がキャリア2〜4戦。8戦エイシン・6戦マイネル・5戦テイエム減点。
データ5…3勝以上の馬の連対率は断然の50%。コスモ・ワンダフルに加点。
データ6…東京スポーツ杯組と京都二歳ステークス組が各4連対。タイガー・エイシンに加点。
データ7…1コーナー寄りポケットからスタートする中山芝1600mは、2コーナーまでの距離が短く急カーブなので脚質を問わず8番から内が断然有利。2番サクラ・3番テイエム・4番ワンダフル・5番エイシン・7番コスモに加点。

「コスモがプラス2で、プラス1がエイシンとワンダフル。サクラ・タイガー・テイエムの3頭はイーブンでマイネルはマイナス2という結果でさぁ、ここでマイネルが落ちる」
 カバは、更に前走2着のタイガーモーションを除いて、前走が1着だった馬を“カバファィブ”として残した。エイシンチャンプ・コスモインペリアル・サクラプレジデント・テイエムリキサン・ワンダフルデイズである。
「カバさん、もう1頭はどれ外すの?」
「ハンペー。お前ならどれを外す?」
「またそれ? イヤな展開だなぁ、前回はこんな感じで結局勝てなかったからさ」
「四の五の言うんじゃない! ちゃんと自分の考えを言ってみろよ。たまには頭を使っとかねーと、頭の中のオカラが腐るぞ」
「はいはい」
「“はい”は、ひとつでいい!」
「はい! な、なんでこうなるのよ? オレ、ガキじゃねーのに……」
「早く言え、早く!」
「えーとさぁ、カバさんファィブは皆オープンを勝ってるじゃない? 重賞を勝ってんのはサクラだけだけど……」
「それで?」
「それでさぁ、ワンダフル以外は皆芝の1800m以上で勝ってんだよね。だからさ、オレ、外すのはワンダフルデイズだと思うんだけど……」
「ご名答! ハンペーもいいとこ見るようになったなぁ。俺もそう思う」
 結局“カバフォー”は、エイシンチャンプ・コスモインペリアル・サクラプレジデント・テイエムリキサンの4頭に決まった。
 一方、曲者タヌキがご執心(しゅうしん)の人気馬だが、1番人気はサクラプレジデント。2番ワンダフルデイズ、3番サイレントディール、4番マイネルモルゲン、5番テイエムリキサンときて、コスモインペリアルは7番人気、エイシンチャンプは8番人気である。
 過去十年間の人気別連対数は1番人気(今年はサクラ)が9でトップ。2番人気(ワンダフル)が5、6番人気(タイガー)が2と続き、あとは3番(サイレント)・4番(マイネル)・8番(エイシン)・10(バロンカラノテガミ)が各1。1番人気が断然の成績だが、今年は本来の1番人気と2番人気が回避して押し出された人気だけに下位との力の差はなく、波乱の気配が濃厚だとカバは強調した。
「念のために……」と、タヌキがカバに展開予想を訊いた。
「典型的な逃げ馬がいないんですよね。だから、ヨシサイバーダインが引っ張る平均ペースになるんじゃないですか。マイネルモルゲンが二番手につけ、差がなくサイレントディール・ワンダフルデイズ・タイガーモーション・エイシンチャンプらが先行集団を形成する。中団に人気のサクラプレジデント、サクラに並んでテイエムリキサンとコスモインペリアル、最後方にマイジョーカーとバロンカラノテガミという隊形で淡々と向正面をすすむ。3コーナーにかかるとサイバーダインにマイネルとサイレントが並びかけ、ワンダフル・タイガーが接近して、後続が徐々に固まってサクラも先行集団にとりついてくる。4コーナー手前でサイレントが動くのを見て直後のテイエムとコスモが上がって行くがサクラはまだ脚を矯めている。直線を向くとサイバーダイン・マイネル・ワンダフルが横一線になり、その外をエイシン・テイエム・コスモが伸び、大外からサクラが末足を伸ばす。直線半ばでコスモが抜け出し、エイシンとテイエムが追う。3頭が叩き合う外からサクラが急襲するが、前3騎が追撃を凌ぐ。
 ということでカバの結論は、二ヵ月半の休養明けであり1番人気でもあるサクラプレジデントを外した、コスモインペリアル・エイシンチャンプ・テイエムリキサンの人気薄3頭になった。
 オカラ脳みその極楽トンボは勿論“カバフォー”のボックスを五百円券で六点勝負する。
 床屋の唐変木は“カバフォー”に残った関東馬、サクラプレジデントとコスモインペリアルに、同じく関東馬でシルクブラボーと好勝負したブルーイレブンと東スポ杯で接戦したタイガーモーションを選んだ。
 曲者タヌキは言わずもがな、上位人気の3頭、サクラプレジデント・ワンダフルデイズ・サイレントディールである。
「女将さんはどれにするんですか?」
 貧乏トリオが声を揃えて泰子の決断を尋ねた。このところ大きくはないものの小銭はしっかり稼がしてもらっているだけに是非とも聴いておかねばならない。
「そうね……。樺山さん、テイエムリキサンはあのタイキシャトルの子供なんでしょう?」
「そうだよ、やすこさん」

「そしたらわたし、そのタイキシャトルの子供と……」
 泰子は思いあぐね考えあぐねている。どうやら今回も閃きはないらしい。
「あと1頭は……素敵な日々のワンダフルデイズにしようかしら」
                          
[12月7日土曜日]

 1番人気サクラプレジデントが出遅れた。好スタートのサイレントディールが先頭に立ち、マイネルモルゲンが二番手。エイシンチャンプ・バロンカラノテガミ・センリツが追い、タイガーモーション・シンボリデビル・ワンダフルデイズと続くほぼ平均ペース。サクラプレジデント・テイエムリキサン・コスモインペリアルは後方から行き、マイジョーカーが最後方。ペースが上がって3コーナーへ。サイレント・マイネルがほぼ並んで先頭、2馬身後ろをエイシン・バロンが追走、更に2馬身後ろにタイガー・サイバーダインが続き、直後の外にワンダフル、サクラがその内に入り、あとは一団で4コーナーから直線へ向く。粘るサイレントの外からエイシンが交わしにかかり、内からサクラが伸び、外からタイガー・ワンダフル・テイエムが来る。先頭に出たエイシンをサクラが一旦交わすがエイシンが差し返す、その外からテイエムが迫ったところでゴール板を通過した。

1着Dエイシンチャンプ  1.33.5 8人気
2着Aサクラプレジデント 1.33.5 1人気
3着Bテイエムリキサン  1.33.6 5人気

払戻金 馬 連AD 4,180円/馬 単DA14,610円/三連複ABD 9,620
      ワイドAB 570円、AD 1,890円、BD 2,250


 オカラ脳みその豆腐屋ハンペーにまたもやこの世の春が訪れた。トンボはビューンと極楽へ舞い上がった。
 ああそれなのに、それなのに……。
 カバはまたまた涙を呑んだ。最後の最後で嫌ったサクラプレジデントが2着に追い込んできたせいで穴馬券を逃した。
 コメディの大御所キンちゃんこと萩本欽一の往年のギャグではないが、
「なんでこうなるのッ!」である。
 カバの脳裏のカラオケステージには伝説の歌姫・美空ひばりが登場している。その彼女が名曲「悲しい酒」を切々と歌いあげ、そして曲は移った、♪“勝つと思うな、思えば負けよ〜”の「柔(やわら)」へと……。


有馬記念へ