子供とあゆむ足跡から


第11集 初めてのディナー

子供たちにとって初めての経験をまとめてみました(’98年9月作成)。


【プロローグ】

 結婚して子供が生まれると、ちゃんとしたフルコースの料理を食べられるようなしゃれたレストランとは、縁遠くなるものだ。子供の行儀の悪さも気がねのもとだし、なにより懐具合が気にかかる。家族いっしょの外食は、もっぱらファミレスや回転寿司などの、子ずれが気にならない店のお世話になる。ちょっと贅沢をするにしても、座敷のある中華料理や海鮮和食の店どまり。そんな典型的(?)な子ずれ家族が一念発起して、まともなディナーにチャレンジすることになった。以下は、そのときの顛末である。
 


【アプローチ】

 下の娘ももう小学三年生、そろそろ社会勉強も必要だ、それに、今日はご主人様の年に一度の誕生日(二度はナイんだぞ)、たまには、景気刺激のための臨時財政支出も必要だ、とのわけのわからん理屈を並べて大蔵大臣を説得し、いざお出かけ先の候補選びへ。いきなりホテルのディナーでは、おめし替えが大変。まずは近くの肩のこらないところで、と選ばれたのがニュータウン近くのフレンチレストラン。昼間のランチ時は、奥様方の人気が結構高いところだが、ディナーとなると、わが家にも経験者はなし。ま、なんとかなるわよ、とさっさと電話で予約を入れてしまう細君。ウ〜ム、母はつよし。ん、でもなんで電話番号がわかるの。いろんな店のパンフレットは、初めに行った時、ちゃんともらってくるものよ。情報収集能力で差をつけられた父。

 店の場所は国道沿い。前後が大きな建物に挟まれていて、車からはすこし見にくい。ゆっくりと走っていて、ようやく道端にあるレストランの駐車場看板を発見。片側2車線の道路なので、左側を走っていないとあやうく通りすぎてしまうところ。反対車線からは入れないので、通り過ぎた時は裏道を戻ってくるしかない。駐車場はそれほど混んでおらず、停車位置に止めていよいよレストランへ。
 


【レストランにて】

 建物は、こじんまりとした2階建の一見ペンション風の外観。建物まんなかの入り口を入ると、正面に受付兼レジのカウンターがあり予約名を告げる。右側にいくつかの客席が見えたが、案内されたのはカウンター隣の階段を上がった二階席だった。階段も床も濃い色に塗られたウッド調に統一されており、インテリアも落ち着いたアンティーク調。明るさをひかえた照明とあいまって、なかなかオトナのムードでよろしい。席は、一階と合わせても5〜60席程度か、あとはテラスにいくつかのテーブルが並んでいたが、外は国道の喧騒がちょっと気になりそう。ペアテーブルもいくつか用意してあり、デートの用向きにも、一考の価値はある。ま、当分わが家には関係ないかな、とよけいなことを考えていると、まわりのテーブルのセッティングを始めたウェイトレスの背中が、明らかにオーダーを催促している雰囲気。

 慌ててメニューに目を通す。前菜からデザートまで、一通りのオーソドックスな品が並んでいる。本日のお進めコースの料理は、3000円、4000円、5000円の3段階。お進め以外は、メインディッシュを選んで、スープ、パン、ドリンクのセットとすれば+700円、さらにデザートを加えると+1000円。ステーキが2000円強であるので、まあまあ妥当な値段か。親はお進めコースを、子供たちにはセットを選んで、いざオーダーを開始。

 ここで子供たちには、第一の難関。同じセットでも、ドリンクやソースのオプションを決める必要がある。注文取りのウェイトレスは、テープレコーダと化し、マニュアル通りの立て板に水のごとき説明をするが、初めての身には聞き取れるわけもなし。当然、視線もこちらを向いている。しかたなく、助け船をだしてなんとかオーダーが完了。

 前菜とスープからいよいよ料理がスタート。そして、第二の難関。あらかじめたくさん並べられたナイフやフォークのどれを選んで使えばいいのか。フルコース用に並べられたものだけに、中途半端なセットメニューではなおさらしまつが悪い。とりあえず、端から順番に使えば良かろうと教えたが、えらく切りにくそうにステーキを切っている。後で良く見ると、オードブル用の歯のないナイフだったようで、よく見えなかったことながら、もうしわけないことをした、と反省。それでも、ファミレスのおかげで、ナイフやフォークもそこそこ使えるようになるもんだな〜、自分たちが小さい頃は、ハイカラな家庭でなければなかなか機会がなかったからな〜、としばし回顧の思い。

 突然、おしっこ〜、と下の娘。あっという間に思いは現実に引きもどされる。一階のトイレは入る時にいつものくせでチェック済みだったが、案内された二階はまだであった。見回してもインテリアグッズが目に入るだけで、ファミレスのような目立つ看板があるわけもなし。あわてて人を呼んで、トイレへと。なぜだかしらないが、娘がこう言い出した時は、いつもほとんど時間に余裕がない。やれやれ。それでも子供たちは、いつもと違う雰囲気に、せいいっぱいおとなしくしている様子であり、まあ、かんにん、かんにん。

 つづく第三の難関は、料理と料理の間合い。食べるスピードとはおかまいなしに次々と料理が運ばれてくるファミレスとは異なり、ゆっくりと時間が流れていく。途中で日が暮れたので、テーブルにキャンドルが置かれていく。子供たちにとっては、いつもと違ったテンポに戸惑っている様子。親の方をちらちら見ている。次に、何が起こるのかが予想できないので、不安と興味と半々のおももち。デザートの後に飲み物が出ておしまいだから、もうすこし。ガンバレ。

 気を使っての早めのスタートで、がらんとしていた周りの席が埋まり出した頃、1時間半ばかりの「初めてのディナー」がようやく終了した。子供たちのちらかった席はそれとなく始末して、最後に忘れ物チェック。伝票をもって階下のレジへ。1万円札におつりはつかないが、しかたあるまい。結局、わが家以外に子ずれは見かけなかったが、特に店の人にはいやな顔をされることもなくて、よかった、よかった。
 


【花道にて】

 帰りがけに、出入り口の横にあるケーキコーナーに寄って、おみやげを選ぶ。このあたりで、子供たちもよやくいつもの状態に戻ってはしゃいでいる。やっぱ、それなりに緊張していたのかな〜。駐車しておいた車に乗り込み、ライトをつけて一路わが家へと。かくして、一巻の終わ〜り。
 


【エピローグ】

 親が手助けをできる間に、少しずつ成長する子供たちに合わせて、いろいろなことを経験させてやれたらいいな、と思っています。大人にとってはなんでもないことであっても、はじめての子供たちには貴重な経験となるはずです。特に社会生活に関することは、学校ではなかなか学ぶことが出来ないので、親としての役割が大切になります。金銭的には多少大変ではあっても、この時期だから新鮮に感じられること、大切にしたいものです。

 みなさんのお子さんは、いつごろ初のディナーを経験したのでしょうか。

 


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