子供とあゆむ足跡から
個性を育てる授業について、テレビ番組を見ながら考えてみました(’00年2月作成)。
毎日曜日のお昼前の時間帯に、NHKで「ようこそ先輩」という番組を放送しています。それぞれの分野の第一人者が、かつての母校である出身小学校をたずね、子供たちに自分の専門を生かしたユニークな授業を行うという番組です。画家、音楽家、振り付け師、スポーツ選手、ラリードライバーなど、一芸に秀でた人たちの授業は新鮮で魅力にあふれています。どの学校でも、子供たちが目をかがやかせて授業を楽しんでいる様子が、とても印象的です。
多くのゲストの授業に共通しているのは、こどもたちが時間をかけて実際の体験をすることを大切にしているということです。ある時は芸術作品の作成であったり、ある時はフィールド観察であったり、ある時は理科の実験であったりします。どの専門分野であれ、本物に触れて感じること、考えることが出発点となっています。それぞれの体験から生まれた作品や感想は、子供たちの個性にあふれています。先生は、ひとつひとつを丁寧に評価し、個性の輝きを見いだしてくれます。こども相手だからといって、レベルを下げて適当に初歩を教えるだけのことはほとんどありません。その道のプロであるゲスト先生にとっても、思っても見かった新しい発見のある刺激的な授業となっているようです。
各分野での第一人者であるゲストは、はっきりした主義、主張あるいは信念を持っていることを強く感じます。それは、道を究めるために必要なこと、あるいは道を歩む過程で自然とつちかわれてくるものなのかもしれません。番組を見ていると、本物だけがもつ個性的な魅力を、多感な子供たちは敏感に感じ取ることができるように思えます。
たぶん、とある画家がゲストの回であったかと思います。まず、なんの説明もなしに子供たちに魚の絵を描かせました。すると大半の子供たちの絵が、あたまを左側、尾を右側に向け、横から見た同じようなのっぺりとした形の魚になってしまいました。それは、あたかも同じ教科書をみんなで写したような絵でした。
普段の学校の授業では、決められた答えがある問題を解くことがほとんどです。魚といえば、たい焼きのような形、リンゴといえば、へたを上にした赤くて丸い形、というように、子供たちの頭の中では一つの答えが決められてしまっています。そこには、それぞれの個性が入り込む余地はぜんぜんありません。ところが、同じ顔の友達が2人としていないように、自然界にもまったく同じというものはありません。また、一匹の魚を観察するにしても、見る時間、見る角度によって、二度と同じ形には見えないものです。
普段のステレオタイプの答えではなく、発想の自由をうながされるような授業を受けた後、子供たちが最後に仕上げた作品は、みちがえるほど個性的なものに変わっていました。ある子は活発に泳ぎ回っている魚を描き、ある子は切り身にされた魚を描き、ある子は魚が登場する物語を描き、30人ほどの子供たちの作品がみな違った絵となっていたのです。
限られた時間の中で、出来るだけ効率的に知識を学んで行くことを学校は求めてきましたが、従来の教育が曲がり角に来ていると言われるようになりました。この番組は、これからの学校の可能性の一つを見せてくれているようにも思えます。