つれづれなるままに


第4題 レマン湖のほとりから

 続くときは続くものです。今度はスイスの西側への出張です。(2001年7月作成)。


☆ まずは往路をだどってホテルまで ☆

 海外出張と言うとうらやましがる人もいるが、わずか2日の仕事だけのために、エコノミークラスでヨーロッパを往復するというのも、けっこうしんどいものである。 去年行ったから今年は代わってくれ、と叫んだけれど、結局だれも貧乏くじを引いてくれる人がいなかった。 この時期、気候はほどほどよいし・・・、春休みと夏休みの狭間だし・・・。 いや〜な予感が的中し、2つの熟年世代の団体旅行の真中にはさまれてのロングフライトとなってしまった。

 若年の団体ほど騒がしくはなかったが、重量級の方々が頻繁にトイレットタイムに出入りするのには、さすがに閉口した。 まあ、ヨーロッパ便の行きは昼間の太陽を追いかけて行くフライトなので、暇つぶしにうとうとする程度だが、さすがに12時間をすわりっぱなしで起きているのも、けっこう忍耐を必要とする。 ときどき、軽い乱気流で適当に揺れてくれたほうが、気分がまぎれたりする。 本を持ち込んでも、ただ、活字を眺めているだけで、集中するような作業にはまったく不向きな環境である。 実は、現地での仕事の準備をこの機中でするつもりであったか、早々にあきらめてしまった。 まあ、うまくいかなかったら、ビジネスクラスに乗せてくれない会社が悪いんだい、と割り切って行こう。

 今回の仕事場所は、IOC本部もあるスイス西側のローザンヌ。 レマン湖畔のほとりにある、風光明媚な場所、ら、し、い。 成田を昼の12:00に出発し、飛行機2便と列車を乗り継いでホテルにたどり着いたのは、同じ日の現地時間で夜中の9時すぎになっていた。 ところが、驚いたことに、その時間になっても、ローザンヌの街はまだ昼間の明るさである。 いくらサマータイムとはいえ、日本とはそれほど緯度は変わらないと思っていたが・・・。 これは、まだ、仕事をしろ、ということだろうか。

 ここのところ、出張先のホテルでまずやることは、通信環境の確保である。 ところが、ヨーロッパでは日本とモジュラージャックの形式が違うところが多い。 都会のホテルでは、電話とは別にパソコン専用のコネクタを設置しているところもあるが、「格式の高いホテル」=「古いホテル」では、接続に苦労することが多い。 今回は、そこそこの名前の知られた街中のホテルだから大丈夫だろうと、たかをくくっていたら、大ハズレであった。 変形の四角のコネクタに、6つの端子がならんでいるのである。

 う〜ん、今日はもう、寝よう。
 


☆ テクニシャンの裏技 ☆

 さて、一夜明けて、昨日のつづきから。 そう、モジュラージャックの接続作業である。 壁に設置された電話機のコネクタのカバーをドライバーではずし、内部の接続をチェック。 電話機につながっているのは、6つのうちで、2つの端子だけであることを確認する。 だだし、手元にあるのは、普通のモジュラージャック用の接続ケーブルだけ。 ちょっと細工をするには、道具立てが不足である。

 しばし考えて、えい、ままよ、と、ケーブルの途中をはさみで切断。 被覆をはいで、接続に必要な線を2本、むき出しにする。 後は、むき出した線材を、直接、壁の端子穴に突っ込むだけだ。 しかし、最近のケーブルは、銅線ではなく、芯となる糸に銅箔を巻きつけただけのやわな構造である。 とても、壁の穴に突っ込めるものではない。 何かないだろうか・・・と見渡し、見つけたのはチョコレートの包み紙。 そう、立派なアルミ箔である。 小さく切ってむき出した芯線に巻きつけ、ケーブル加工は完了。

 ちなみに、ここまでの作業で使った道具は、スイス製アーミーナイフ1つである。 ナイフ、缶切り、コルク抜きのような料理道具だけでなく、はさみ、ピンセット、ドライバ、のような工具もセットになっていて、旅行にはなかなかのすぐれものである。 是非、旅行には持参することをおすすめする。

 さて、壁の端子穴にケーブルを差し込む。 ちょっと触れるとはずれてしまうような、不安定な接続だが、電話回線の場合はほとんど電流は流れないので、ちょっとでも触れていれば十分、の、はず。 特に、相手は同じホテル建物内の交換機であるので、距離も近い、はず。 怖いのは、変に高い電圧が出ていて、パソコンのモデムを壊してしまうことだが、これだけは、電源電圧チェック用に持ってきたカードテスターで確認しておく。 PCに繋いでダイヤルアップを起動する。 ピーー、ヒョロヒョロヒョロ〜〜。 なんとか開通となった。

 まずは、個人プロバイダにつないで、私用メールを確認。 つづいて、仕事メールのダウンロード。 おっと、容量制限をかけておかないと、とんでもない添付ファイルを落としてしまうぞ。 あ、もちろん電話先は、ローミングサービスで利用できる、現地のプロバイダです。

 ということで、昨夜から一歩もホテルを出ておらず、風光明媚な現地の実態は、まだ、ぜんぜんわからないまま、一日が終わろうとしています。
 


☆ 食い道楽はないけれど ☆

 仕事で建物内に缶詰で、外出もままならないと、わずかの息抜きは食事ということになる。 ここは、フランスとイタリアに近いので、さぞや洗練された西洋料理の数々が味わえるものと期待していたが、みごとにうらぎられた。 目の前が湖のためか、魚料理が多いのだが、煮ても焼いても、そして燻製のサラダにしても、とにかくしょっぱいのである。 そして、最後を出てくる凝ったデコレーションのデザートが、これまた、目いっぱい甘いときている。 日本でも、ここまで甘いケーキは、最近はめったに味わったことが無い。 結局のところ、ほとんど味付けのいらない果物が、一番まともな味に思えた。

 さすがに、そこそこの値段を出しても、ここまで口に合わないとかなわない思い、メニューにあまり無い肉料理を食べてみた。 ところが、こちらはごくごくまともなフレンチの味付けであった。 どうも、こちらの魚料理に特有の味付のためだったようだ。 日本人は、魚料理というと、刺身のような淡白な味を期待するが、山国のここにきて、同じような期待をするのが間違っていたんだろう。

 ちなみに、ローザンヌの駅前にも世界のマクドナルドが店を構えていたので、あまりにも口に合う料理が無いと、最後の頼りかなとも思ったが、幸い今回はお世話になることはなくてすんだようだ。

 ところで、レマン湖畔に面した南傾斜の斜面は、ことごとくブドウ畑に占領されている。 こちらのブドウは、日本のように棚にするのでなく、トマトやナスのように、添え木を当てて身の丈ほどの高さで栽培されている。 遠目には、きれいな縞模様の畑に見える。 そういう環境にあるので、料理に添えられるワインは、日本で言うところの地酒がほとんどである。 スイスワインというのは、日本ではあまりなじみが無いが、聞くところによると、ほとんど輸出はされていないらしい。 確かに、ここのブドウ畑から望む山の風景にも残雪がみられるなど、山国の気候で栽培できる地域はごく限られた範囲なのかもしれない。

 魚料理が多いので、ほとんど白ワインであったが、甘口ではなくドライな味で、後味はさっぱりとしている。お酒の好きな人に、向いた味だろうか。 ドイツワインにあるような甘口には、お目にかかることがなかった。 残念ながら、ラベルはフランス語なので、銘柄についてはコメントのしようがないのだが。
 


☆ 観光地ローザンヌ ☆

 最後の日の仕事を早々に切り上げて、ようやく近くにあるオリンピック博物館に立ち寄ることができた。 そう、ここローザンヌには、近代オリンピックの開始以降、ずっとIOCの本部が置かれている。 その本部の近くで、オリンピックの歴史や競技についての展示をしているのがこの博物館である。

 2日前から2階のフロアで、最近の競技用具に関する新しい展示を始めたばかりとのことで、ちょうどいいタイミングであった。 もちろん、競技用具といっても、メダリストたちが使用したものであり、ほとんどにそのサインが添えられている。 日本人では、マラソンの高橋のシューズ、スピードスケートの清水のウェアなどが展示されている。 他には、バスケットのジョーダンの47cmというばかでかいシューズ、スキーのキリーのブーツなどが並んでいる。 スイスという場所がらもあってか、ウィンタースポーツ関係にも、半分のスペースをさいているのが、印象的だった。

 歴史展示では、それぞれの過去のオリンピック開催時のメダルやグッズ、ベルリン大会より始まった聖火リレーで使われたすべてのトーチ、近代オリンピックの創始者クーベルタンにまつわる品々など、なかなか見ごたえがあるところである。 スポーツ好きにはおすすめの場所である。 頼めば、日本語の案内もしてくれるそうだ。

 博物館は湖に面しており、すぐ近くに船着き場がある。 夕方、といってもまだまだ昼間のような明るさであるが、レマン湖をめぐる遊覧船に乗って、ジャズフェスティバルでも有名なモントルーまで行ってみた。 気温は30度ぐらいになっているが、湿度が低いので、湖をわたる風がなんとも心地よい。 レマン湖は東西に細長い国境の湖であり、対岸はイタリアである。 西に傾いた夕日が、湖面に反射して船内の天井まで照らしている。

 この地方にとっては、もう短い夏の季節に入っているのか、湖畔のあちこちにキャンピングカーが並んでいる。 波のほとんど無い湖で泳いでいる家族ずれも多い。 湖畔沿いも平地はほとんど無く、背景の山の斜面は、ことごとくブドウ畑となっている。 すでに夕方7時を過ぎているのに、一面の青空である。 う〜ん、仕事をしにくるところでは、ないな〜。

 ローザンヌに戻り、郊外の高台にあるレストランで、暮れ行く湖を眺めながら、久しぶりに落ち着いた食事を楽むことができた。 高度が高く、空気が薄いためなのか、日が傾いてきても夕焼け色に染まるのは、わずかに山の輪郭だけである。 照明がしだいに明るさを落としてゆき、いつのまにか薄暗くなっている、というよう日暮れであった。

 さて、明日からは2日がかりの帰路だが、おみやげはどうしよう。
 


☆ 帰路はラッキーでした ☆

 帰りのルートは、列車でジュネーブに出て、チューリッヒで飛行機を乗り継ぐというものである。 ジュネーブでの待ち時間を利用して、街中でのヒューマンウォッチングをこころみた。 場所は、レマン湖畔の有名な大噴水の前の公園である。

 まず目につくのは、女性の服装である。 タンクトップや、キャミソールというようなたぐい、あるいはほとんど水着と変わらないようなものなど、とにかく上半身の露出度がやたらと高いのである。 日本であれば、夏のさかりの、リゾート地の光景だろうか。 確かに気温は30度程あるが、空気が乾燥しているので、私など日陰では上着を着ていても平気である。 でも、こちらの人に聞くと、この状態が一年間でもっとも暑い気候とのことである。 冬場を含めて平均気温が低いことに慣れているこちらの人にとっては、やはり異常な暑さということなのだろう。

 ヨーロッパの北半分では日照時間が限られているので、ちょっとでも日があると、日光浴をしたがるという習慣も関係しているかもしれない。 まあ、のうがきはさておき、私の男の目から見ての感想は、といわれると、これがなんとも答えに窮するのである。 日本と決定的に違うところは、同じような服装が「老いも若きも」なのである。 そう、まさにその言葉どおりに。

 ちなみに、こちらの人は、年齢を経ると、かっぷくのよい体格の人が多くなることも、付け加えておくと、ほぼその光景を想像できるだろうか。 まあ、そういうものだと慣れてしまえば、特別に違和感を持つこともないんだろうけど、数日の滞在ではのぞむべくもない。

 さて、もうひとつ気がつくことは、街中を走っている自家用車のほとんどが、窓を開け放していることである。 クーラーを備えていないのである。 もちろん、冬場の暖房のために強力なバッテリーは備えているんだろうが。 と、と、と、そろそろ時間だ、空港に行かなくては。

 でもって、こちらはジュネーブ空港。 文句も言わず、まじめに仕事をかたずけたごほうびだろうか、出張の最後にうれしいプレゼントをもらった。 なんと、ビジネスクラスの搭乗券である。 もちろん、このご時世、会社支給のチケットは、予約の変更すらできない割引のエコノミーチケットである。 ところが、よくよく思い出してみると、帰りの便は満席で、出発の直前まで空席待ちとなっていた。 出発前日に、希望どおりのチケットが届いたので、てっきり予約のキャンセルがあったと思っていたが、実はそうではなかったようである。 航空会社にしても、ビジネスクラスに直前になっても空きがあれば、たとえエコノミー料金の客でも、空席を埋めて飛ばしたほうが、はるかにましなのであろう。

 しかし、出張をする当人にとって、半日がかりのフライトでは、差はものすごく大きい。 料理などのサービスの違いはさておき、とにかく座席の広さ、リクライニングの質がエコノミーとは雲泥の差なのである。 ということで、帰り便は、腰痛に悩まされることも、ツアー客に邪魔されることもなく、しごく快適なフライトであった。 終わりよければ、すべてよし、ってね。

 あそうそう、帰りの機内誌を見ていて、スイスの日照時間が長いわけがようやく分かった。 なんと、緯度は北海道の最北端稚内よりも北側だったのである。 北海道は、イタリアの北半分と同じくらいの緯度となっている。 てっきり、気候の似ているドイツと同じくらいだと思い込んでいたのが、大きな間違いの元であった。 こんなことに気がつくのも、余裕のビジネスクラスのなせる技かな。
 


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