第0章 Before the trip

バルセロナ。

それは俺にとっての憧れの地だ。

なぜなら、

FCバルセロナ(以下バルサ)というサッカーチームが

そこにあるからだ。


そのバルサのホームスタジアム「カンプノウ」。

98,000人収容の欧州最大級のスタジアム。

そこで本物のヨーロッパサッカーが観たい。

本場の観衆の熱気を体感したい。


バルサファンになって十数年。

そんな想いをずっと持っていた。


前の会社でそんな希望を上司に話すと、

「来年の夏なら」という答え。

だが、その年の暮れに会社は倒産。


だから、それから数年分寝かせた想いは、

より深く濃いものになった。


おかげで金は貯まった。

あとは「いつ行くか」だ。


今、バルサのサッカーは世界最高と評される。

先シーズン、念願の欧州チャンピオンになった。

欧州はおろか、スペイン国内でさえ、

優勝出来なかった時代を知っている俺にとっては、最高の時だ。


行くなら今しかないぜ!


でも、仕事との兼ね合いで、

長い休みが取れることが前提になる。

そんなのは、年末年始、ゴールデンウィーク、夏休みのいずれかだ。


いろいろ調べると、年末年始はサッカーの試合がない。

ゴールデンウィークは日本発の航空券がバカにならない。

そこで、残るのは夏休み。


しかしバルサの所属するスペインリーグは、

8月下旬か9月上旬に開幕する。

それまではオフシーズンだった。


土曜の休みとの兼ね合いを考えると、

チャンスはごくわずかだ。


しかしこともあろうに、夏休みを申請する時期には、

試合日程が決まっていなかった。


だから今までのシーズンから、推測して申請した。

予想は運良く的中した。


夏休みを取れる期間内で、

バルサの試合は、その日1試合しかなかった。

まさに千載一遇の機会。


この幸運に感謝!


さて旅が現実のものとなると、

次の問題が出てきた。

それは「言葉」だ。

スペイン語は、

「おはよう」と「こんにちは」と「ありがとう」しかわからない。


学校で習ってきた英語も、ほとんど頭に残ってない。

たぶん中1か中2くらいのレベルじゃなかろうか。


現地は英語がわかる人はそれほど多くないから、

英語が喋れる人でも、そうでない人でも条件はあまり変わらない。

そんなガイドブックの説明さえあった。


しかも、現地はスペイン語とは少し違うカタルーニャ語という言葉。

なんか、ややこしくなりそうだと思った。


で、ふと考えた。

日本に来る外国人だって、

日本語喋れるヤツらがどのくらいいるというんだ。

ヤツらは平気で英語で話しかけてくる。

だったら、俺だってなんとかなるだろう。

そんなヘンな開き直りがあった。


ほかにも、治安のことも気がかりだった。

一部の途上国と比べたら、かわいい方かもしれないが、

スペインの治安は改善されてはいるものの、

そこまで良くはないらしい。


海外は初めてにもかかわらず、

個人旅行は必然の流れだった。

日程的に都合の良いツアーがないことはわかっていたからだ。

しかも、ひとり旅。


わくわく感とは裏腹に、これらのことが気がかりだった。

これは冒険に近いなと思った。

でも、行きたい気持ちがそれらを上回っていた。


家の近くの本屋で、一冊の本が目に飛び込んだ。

高橋歩著 LOVE&FREE

その本のオビにこう書かれていた。

「放浪しちゃえば?」。

それを見て、腹は決まった。



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第0章 Before the trip

第1章 旅立ち

第2章 エールフランス

第3章 欧州上陸

第4章 パリからバルセロナへ

第5章 来たぜバルセロナ!

第6章 聖地カンプノウ

第7章 言葉の壁

第8章 街へ

第9章 地中海

第10章 コロンブスの塔

第11章 バルセロナというクラブ

第12章 いよいよ試合開始

第13章 バルセロナvsオサスナ

第14章 サグラダファミリア 1