第2章 エールフランス
September 7, 2006
搭乗口でチケットを見せ、 21:55に成田を発つエールフランス航空277便 パリ行きに乗り込む。
今、日本からスペイン国内への直行便はない。 だから、ロンドン、アムステルダム、フランクフルトなどで
乗換えなければならない。 俺はパリ経由を選んだ。 欧州行きで唯一、日本を夜に出発する便だ。 短い休みを少しでも有効に使いたかったから即決した。
それにシャルル・ド・ゴール空港の芸術的な建物を 見てみたいというのもあった。
旅立つときはいつもワクワクする。 だけど今回のワクワク感はいつもと違い特別なものだ。 国内旅行と海外とでは高揚感が違うのも当然だ。
飛行機へと繋がる通路で、 俺の前を歩くフランス人女性が不意に立ち止まった。 後から来る誰かを気にしているんだろう。
俺も立ち止まると、その女性は俺の方を向いて、 先にどうぞと笑顔で手を差しのべた。 俺も笑顔で「Thank you」と言って先を歩く。 いや、ここは「メルシー」って言うべきだよな、 と言ったあとに気付いた。 咄嗟にフランス語なんて出てきやしないよ。 でも、そのうち出来るようになろうぜ!
客室乗務員は日本人とフランス人が半々。 「ボンソワール」と迎えてくれた。 フランス人の女性はきれいだし、男性は格好良かった。 でも、ただきれい、格好いいというなのではなく、 日本人には無いものを持っているような気がする。 なにが違うのだろう。 誇りというか哲学みたいなものだろうか。
300以上ある客席は満席。 僕の席はデカい機体のなかで後ろから2番目の通路側だ。 周りはみんな日本人だった。
フランスの航空会社なのに、 機体は欧州製のエアバスではなく アメリカ製のボーイング777。
機内のアナウンスが始まった。 フランスの航空会社だから、まずはフランス語が流れた。 「☆♂£◇$★*♪ ・ ・ ・」さっぱりわからない。 次に英語、最後に日本語だ。
フランス語、英語は張りのある男性の声で、日本語は女性の声。 最初のフランス語が全くわからないからだろうか、 次の英語を聞くと、なぜかホッとする。 その感覚が不思議だった。
英語は部分的にしかわからないんだけど、 馴染んでいるからなんだろうか。
そうこうしている間にいよいよ離陸! 離陸のときに客室乗務員がガヤガヤと喋っていた。 それがシーンとした機内に妙に目立った。 日本の航空会社はみんな静かに真面目にしているのだが、 文化の違いなのか ・ ・ ・?
飛行機に乗ると離陸のときにいつも思うことがある。 こんな重い鉄のかたまりが、よくも浮き上がるもんだなと。 そのためのとてつもないエンジン音。 技術の粋を集めた機械が悲鳴を上げて、 懸命に「飛び上がるんだ」って、 自然界の重力に必死に抵抗している人間の思いが 「けなげ」にみえてくる。
東京〜パリの便には各座席にモニターがついている。 地図上に飛行機の絵を置いて、 この飛行機がどのあたりを飛んでいるのか、 今の状況がリアルタイムで映される。
高度はどのくらいか。外の気象状況はどうか。 到着地はどうか、日本語とフランス語で表示される。
その地図の日本の地名が、 新潟を「斯瀉」、青森の三沢を「三澤」と書いてあった。 このソフトを作ったフランス人は 相当古い地図を見てたのだろう。
この飛行機は北へ向かった。 中国を避けるようにして、 ウラジオストックあたりから西に向きを変え ロシア上空を飛ぶようだ。
外気温はマイナス50度くらいという表示。 さすがはシベリア。 機内も寒くなり、各座席に用意されていた タオルケットがありがたかった。
このモニターはもちろん映画も見られる。 音楽も聞けるしゲームもできる。 俺は見なかったけど、 好きな人は映画三昧になるかも ・ ・ ・。
何度目かのアナウンスが入る。 パリまでは12時間30分もかかると言っている。 座席の快適度は新幹線以下のこの狭いエコノミーで そんな長い時間じっとしていられるか! 航空会社にはなんとかして欲しいものだ。
そのときのアナウンスで、フランス語がわずかに聞き取れた。 最初に「マダムシュー」と言ってる。 英語で言う「レディース エンド ジェントルメン」と同じなんだ。 それもマダムとムシューを続けて、 しかも「シュー」の語尾を上げて発音するのも新鮮だった。 「マダムシュー」が耳に焼き付いた。
日本時間の0時近いのに機内食が出た。 機内食というとCMのオダギリジョーを思いすのは俺だけか ・ ・ ・。 試しに「ビーフ」と言ってみた。 でも出てきた食事はそれほど旨くは感じなかったな。
それよりヘンに思ったのは、 食事中に気流の乱れで機体が大きく揺れた。 それでも乗客は目の前の食事をモノも言わずに食べていた。 そんな様子を見ると、 餌を無我夢中に食う家畜のようにみえて ちょっと滑稽だった。 日本人はもっと楽しく食事をとるべきだよな。
食後は寝る。 よく考えれば仕事を終え帰宅して寝る時間だ。 姿勢の辛さとか気にならずにいつの間にか眠ってた。
機内の一番後ろの、トイレや機内食を収納するところに、 ちょっとしたスペースがある。 そこに眠れない人、座り疲れた人たちが、 集まって談笑していた。 そんな、にわかなコミュニティーも旅ならでは。
でも俺は夢のなか。ZZZ ・ ・ ・。
フッと目が覚めた。何時だろうか。時間がわからない。 時計を見ても、もう日本時間は意味がないのだから。
通路を挟んで真横、そのひとつ前、ひとつ後ろ、 そして僕のひとつ前は、どうやらみんな一人旅のようだ。 誰かと一緒という素振りがないからだ。 彼らは男性、女性が半々。 各自「スイス」「南ドイツ」などのガイドブックを拡げていた。
日本男児よ。狭い島国でノウノウとしてないで、 身ひとつで、大海に飛び出し世界を見よ! 海外に行くと人間力が問われる。 そんな気がするから。
朝食が出てきた。 チーズやハム、クロワッサン、ピーチなどなど ・ ・ ・。 全体的にパサパサした食い物が多い。 こういう食事は、毎日は勘弁だな。 やはり和食がいい。お箸の国の人だもの。
到着時間が近づいてきた。 入国者カードが配られる。 フランスに入国するにはそのカードに 必要事項を記入しなければならない。 でも、記入項目を示す言語は英語とフランス語のみ。 予備知識が無かったので、ちょっと戸惑った。 しかし座席に挟まっていたエールフランスのパンフレットに 日本語の解説があったので助かった。
フランス時間で朝4時過ぎ。 まだ真っ暗ななかに、パリの灯りが見えた。 日本からだと地球を1/3周くらいしたことになる。 窓の外は、本当にヨーロッパなのか? まだちょっと信じられないが、 テレビの中の世界でしかなかったヨーロッパに初上陸する。
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