都筑大介 ひなたやま徒然草

 のんびりと日向ぼっこをしていたいのに、今の世の中、腹が立つことが多すぎる。だから、文句の一つも、カバチ(屁理屈)の二つも、言ってみたくなる。
 
しかし、女房殿には聞き流されるし、娘に話すと馬鹿にされるから、やはりここでしゃべるしかない。弱ったね、トホホホ。

37 沈みゆく国
36 罪深きは誰か
35 迷惑メール考
34 桜は咲いたが
33 政治は喜劇、国民は悲劇
32 夢は人を動かす
31 なめたらいかんぜよ(2)

30 筋の通らぬことばかり
29 真っ当な国に戻そうよ
28 なめたらいかんぜよ!
27 こんな世間に誰がした
26 ああ、ムカッ腹が立つ
25 靖国の熱い夏
24
 思い込みの正義
23 国が溶けていく
22 誰のために
21 変人の最後っ屁に期待しよう
20 白紙委任って怖いよ
19 改革というリフォーム詐欺
18 君、恥ずかしからずや
17 誰も文句が言えなくなる?
16 自己陶酔の美学
15 こすっからいなあ、あんたらは
14 理念のない虚しさ
13 カタチより心でしょ!
12 堕落は政治家だけじゃない
11 国民を守る気がない?
10 ヤンクミとほりえもん
09 厚化粧の国
08 分かち合うんじゃなかったの?
07 新年を言祝(ことほ)ぎたい
06 大したことではない?
05 愚人の秋か?
04 ストライク・アウト
03 時 代
02 スノーブラック
01 変人の冬




     徒然草38「小沢一郎の闘い」
           
 (2011.9.2up)






 過去20年余りの間、日本の政治はなぜか一人の政治家を軸にして動いてきた。その政治家とは元民主党代表の小沢一郎(現在69歳)である。

 小沢の父・佐重喜は弁護士出身の政治家で、吉田内閣と池田内閣で大臣を歴任した。その佐重喜の急逝により、小沢は27歳から政治家人生を歩み始めた。郷里は岩手県の水沢(現奥州市)、平安初期の中央政府による蝦夷討伐に最後まで抵抗し続けた古代東北の英雄アテルイの末裔の一人らしく、反骨精神旺盛な政治家である。

 ボクが小沢に注目したのは、彼が47歳の若さで自民党幹事長に抜擢される前の、竹下内閣の官房副長官としてアメリカと互角以上に渉り合って電気通信・建設・農作物輸入に関する日米協議を日本側有利に取りまとめた時からである。当時のマスコミは「豪腕小沢」と彼を称し、賞賛と批判が相半ばしていたと記憶している。

 その小沢が、1993年6月、政治改革を進めようとしない自民党を離党して新生党を結成。2か月後に非自民8党派連立の細川内閣を成立させて自民党を下野させた。が、1994年、社会党委員長の村山富市を首相にするという奇手によって自民党に政権を奪回される。

その後、新進党を結成したが内部分裂し、自由党を結成。自民党と連立を組み、議員定数の削減・閣僚ポストの削減・政府委員制度の廃止と党首討論の新設など国会改革を成し遂げた。しかし、公明党が政権に加わってからは自由党の主張は通らず、連立を解消。その際に所属国会議員の半数を占める連立残留派が離れ、小沢自由党は議員22名という小所帯になった。そうした紆余曲折の後に、2002年、自由党を解体する形で民主党に合流。2006年、「偽メール事件」で壊滅寸前となった民主党の代表に就任して党勢を回復させ、翌年の統一地方選・参院選に勝利し、2009年8月の政権交代を実現させている。

 

さて、今回の主題はここからである――。

非自民政権を作った1993年から民主党政権を実現した今日まで18年もの間、小沢一郎は新聞はじめ多くのマスメディアによる批判と非難の嵐にさらされ続け、「壊し屋」「金権政治家」「第2の闇将軍」などと、まるで悪徳政治家であるかのごときレッテルを貼られてきた。

のみならず、小沢政権成立が現実味を帯びてくると降って湧いたように違法献金疑惑が浮上し、東京地検特捜部が彼の秘書2名と元秘書だった衆院議員を逮捕起訴。小沢自身も強制捜査を受けた。
 しかし、検察が見立てた違法献金の証拠は何も出て来ず、小沢は2度にわたって不起訴処分となった。にもかかわらず、大手メディアは「政治とカネ」という曖昧な言葉を使って「小沢=悪」のイメージを煽り立て、民主党の支持率は低下した。
 そこで小沢は、代表の座を譲って鳩山民主党政権の成立につなげたが、検察審査会なる実態不明の素人集団の議決によって刑事被告人の立場に追いやられたばかりか、普天間基地移設問題で躓いた鳩山由紀夫からバトンタッチされた菅直人率いる民主党執行部から無期限の党員資格停止処分を受ける。

ボクは思う、一人の政治家が何故にかくも長きにわたって、メディアによる徹底的な、アムステル大学カレル・ヴァン・ウォルフレン教授(比較政治学)が言うところの「人物破壊(悪いイメージを貼り付けて社会的に抹殺すること)」キャンペーンに曝されなければならないのだろうかと……。

 そしてこうも思う、「刑が確定するまでは推定無罪」である司法の原則を無視して小沢から党員資格を剥奪した菅・岡田執行部の連中は本当に民主主義を信奉する政治家なのだろうかと……。

現在法廷で争われている小沢関連の案件は政治資金報告書の記載に関するものである。監督する総務省が「問題なし」としてきたものを東京地検特捜部はなぜか刑事事件化した。過去にも多くの国会議員が同様の記載ミスをしており、政治資金規正法上は訂正報告で事足りる案件にもかかわらず小沢の場合だけ事件化された。
 そしてメディアは、あたかも収賄事件のような報道を繰り広げ、口を揃えて「説明責任を果たせ」と小沢に迫った。
 しかし、やったことの証明は容易だが、やっていないことを証明するのは至難の業である。ましてや、小沢がどう説明しようともメディアはそれを信じようとはせず、彼がした説明の全容を報道することもなく、「収賄しましたと白状せよ」とばかりに迫るのだから始末が悪い。

ボクは思う、メディアの姿勢は検察流の無実の者への自白強要に等しいと……。

こうした偏った報道と世論誘導の結果、最近でこそネット社会での小沢評価は長年観察してきたボクが理解する彼の実像に近くなっているものの、一般庶民にはいまだに小沢は「不正なカネに手を染めている金権政治家」、「数の力で政治を壟断しようとする権力亡者」といったイメージを植え付けられている。彼の提唱する理念や政策はそっちのけである。

ボクは思う、この現実こそが意図的に作り上げられた「偽りの現実」なのだ、と……。

 そのことを検証するために、小沢一郎の政治理念と政策提言を整理してみたい。

 
 小沢の政治理念は「自立と共生」である。そして政策理念は、官僚支配政治からの脱却と規制緩和による市場開放及び生活弱者救済のセーフティネット構築をセットで推し進めようとするものである。それらは彼が自由党党首だった頃に発表した「十一の基本法案」を読めばよく判る。その主なものを紹介すると、

■地方自治確立基本法案……国の行政を外交・防衛・基礎的社会保障等の国の根幹に関わる分野に限定し、その他はすべて権限も財源も地方に任せることとする。

■税制改革基本法案……所得課税の各種控除を原則廃止する一方で税率を大幅に下げ、現在の所得税を簡単で公平な申告税に改め、誰もが自主申告して納税する仕組みにする。また、社会保険料は現行水準以下に抑え、消費税は全額を基礎的社会保障の財源に充てる。

■国民生活充実基本法案……国民の誰もが安心して生き甲斐を持って暮らせるように勤労・社会保障・家庭生活等について基本的な生活を保障する原則を定める。所得控除を廃止する代わりに親と同居している人や子どもを育てている人への手当てを新設する。

■市場経済確立基本法案……経済を活性化するために事業活動に関する規制は原則廃止し、新たに統一の市場ルールを定め、公正取引委員会の充実等によって市場へのチェック機能を強化する。

■特殊法人等整理基本法案……特殊法人・認可法人・独立行政法人は原則廃止あるいは民営化し、肥大化した行政分野を縮減して民間の経済活動の舞台を大幅に拡大する。

この他にもメディア関連では、「記者クラブ制度の廃止」「クロスオーナーシップの制限」「電波オークション制度の導入」などがあり、検察関連では、「組織改革」「取調べの完全可視化」「地方検事長公選制の導入」などが含まれている。

これら小沢のグランドデザインは、「失われた20年」から一歩も脱却できていない今の日本に最も必要なことだ、とボクは思う。
 世界の政治的経済的情勢の変化を見据えている小沢一郎は、このままでは日本が潰れるという危機感を持って日本を時代の変化に対応させると同時に、官僚統制主義と既得権益者支配の打破を意味しようとしている。つまり、革命なのだ。だから小沢は嫌われるのだろう。

 

日本は主権在民の民主主義国家である。
 表面的にはそうだ。
 が、実質的には今もって戦前に内務官僚が中心となって行ってきた官僚主導型統制体制の国と変わらない。

 この日本型統制体制の特徴の一つは「本物の対立者を許さない」ことで、たとえどんなに立派な大義名分があろうとも、体制が維持したい秩序を乱すあるいは体制にとって脅威と見做されると、様々な手段で弾劾され排除される。
 政治スキャンダルは体制を守るために大々的に展開され、重要課題から国民の目を逸らし、時には冤罪すら作る。そのお先棒を大手メディアが担ぐ訳である。

スキャンダルは明らかに操作されている、とボクは思う。

 新たな政治体制を作ろうとする動きが出てくると、体制を担う人々がその可能性を芽のうちに摘み取ろうとする。彼らは大手メディアを巨大な宣伝力として巧妙に使い、時には検察を動かして目的を果たす。
 しかし、誰か一人の人間あるいは一つの集団が、体制の権力を掌握しているのではなく権力は分散している。つまり、日本型統制体制は阿吽の呼吸で動く権力の集合体なのである。だから権力は行使しても責任は取らない不思議な慣行がまかり通ることになる。

 

官僚が、個人の不祥事以外は決して責任を取らないのは誰もが承知の事実だろう。
 彼らは、政治家が政治と行政を彼らに丸投げしていた自民党政権時に様々な自己保身と自己実現のための制度や組織をつくって膨大な利権構造を創り出してきた。だから基本的に体制の変化を望まないのだ。

国家を運営する上で官僚は絶対に必要な存在である。
 が、旧来から日本には官僚たちを管理するシステムが存在しないために、彼らに権力を与え過ぎると暴走する。戦前の軍部官僚がいい例だ。

 戦後、日本の官僚は世界一優秀だと言われてきた。が、それが真実であれば最小の税金で国民に最大の利益となる仕事をしているはずなのだが、現実は違う。
 予算は必ず使い切り、勝手に使える特別会計を増やし、補助金を天下り先に垂れ流している。補助金で御用学者を養成し、彼らを諮問委員にして都合の良い法律や政策の作成に利用し、税金は使い放題である。
 更には、税金で作った事業や資産を民営化した天下り先の会社に下げ渡し、最近は特殊法人ではない投資会社まで作っている。まさに暴走している。

官僚は、嘘は言わないが事実のすべてを言うこともない。都合の悪いことは言わないで置くのが彼らの習性であり、保身術である。
 官僚にとって特に都合の悪いことは「特別会計の実像」であり、その先にある「特殊法人の実態」と「天下りのカラクリ」である。
 官僚のライフプランは天下りが前提となっている。退官後に数億円規模の収入を得られるようになっているから、これを妨げる輩に対してあらゆる謀略をもって潰しにかかる。だからこそ、小沢一郎のような革命的政治理念を持つ政治家は抹殺対象となる。

しかし、現在、その官僚機構そのものが制度疲労を起こしており、永年の間に蓄積された「習慣性のある人間的滓」によって身動きが取れなくなっている。
 官僚自身による改革は望むらくもない。
 顕著な少子高齢化構造のこの国が「より少ない成長で、より少ない財政で、より有効な、よりスピーディな行政を行う」ためには、誰か強いリーダーシップを持つ政治家が治療する他に道はないのだが、そういった政治家を排除しようとするのも今の官僚組織であり、その尖兵となってきたのが既得権益に胡坐をかいている大手メディアである。
 中でも全国紙の社屋はそのほとんどが格安の価格で払い下げられた元国有地の上に建っているのを見ても判るように官僚組織と癒着し、小沢排除に血道を上げている。

 

 もう一つ、忘れてはならない政治行政の構造がある。

日本は独立国でありながらアメリカの保護国同様に戦後復興をしてきた経緯もあって、官僚たちは米国一辺倒で自立思考を失っている。アメリカの意に染まない政治家と政権を潰そうとする暗い役割まで担うようになっている。
 そして、国民と国益のためよりも、省益と既得権益を頑なに守って自己の保身に走っている彼らは、一体誰のために、何のために、存在しているのだろうか?

 

 日本は今、抜本的な政治改革という、2年前に多くの国民が自らの1票を投じて得た類い稀なチャンスを失おうとしているとボクは思う。

 そのチャンスを生み出したのは小沢一郎に他ならないのに、小沢が日本の政治にとってどれほど重要な役割を果たしてきたかという事実を大半の人は忘れてしまったかに見える。民主党の政治家の多くも真に抜本的な改革をしようという当初の熱意を失っているように見える。
 そうした人々は小沢の評判を貶め、彼の政治生命を抹殺しようとして生み出されたフィクションに乗せられてしまったようだ。

 しかし、並みの政治家ならとっくに白旗を揚げて郷里に引っ込んでいる状況なのに、何度土俵際に追い詰められても小沢一郎は徳俵に足をかけて踏ん張っている。
 今の日本が必要としている政治リーダーは彼のような政治家だ、とボクは思う。

 政権与党の民主党はこの9月から、「脱小沢政治」を宣言して小沢一郎排除に走った菅体制から「怨念政治からの訣別、ノーサイド、挙党態勢」と言う野田体制に移ったが、菅内閣の財務大臣だった野田佳彦がどこまで本気なのかまだ分からないし、財務官僚に操られる危惧もある。

 それにつけても、一度でいいから、2年間でいいから、日本型統制体制と闘う小沢一郎にこの国の舵取りを任せてみたいものだと思う今日この頃である。

 



                         [2011年9月2日]